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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第二十四話 桃色少女は内気でして

 痛さで立ち上がれないのか、女子特有の足を折り曲げた状態で床に付けたままの座り方でまた鼻を鳴らして今にも泣きそうな女子。

 桃色の髪は耳の辺りで黒色のゴムで二つに縛っているが、胸まで長さがある。

 甲斐と同じ位の身長なのだろうが、なんとも存在感が薄く、かなり小さく見えてしまう。

 その背後からゆっくりと明らかに怒っている表情の甲斐が階段を降りてきた。


「お前、同じ組だろ。あいつ誰だよ?」

「全く、君は僕が何でも知っていると思っているね。そうだな、いたような、いないような。同じ学年なような違うような。と、まあこんな感じさ!」

「要するに知らないんじゃねぇか! 役に立たねぇロン毛だな、その髪の毛何の為に伸ばしてんだよ!」



 理不尽なシェアトをあしらいつつ、甲斐が桃色少女ににじり寄るのを楽しそうに見ている。



「つーかまーえーたー。人が気持ちよく寝てるのにぎゃあぎゃあぴいぴいうるさいよ!」



 甲斐は彼女の背後に立つと髪の毛を二つとも頭の上まで持ち上げ、上下に振りながら言うと少女は顔を覆いながら随分と可愛らしい声で悲鳴を上げる。



「や、やめてくださいぃ……ごめんなさいぃぃ。び、びっくりしちゃってぇ……こんな朝早くから人がいるからぁ……」

「や、やめてやれよ……。何年だ? 俺たちは夜通しここにいたからな。お前早起きだな、今日は休日だぞ?」

「にっ、二年ですぅ……。し、知らないですよね……ふふフルラ・インラインですぅ……。みっ、皆と一緒の時間に起きちゃうとぉ……その、挨拶とか……うまくできないからぁ…」



 ぽん、と甲斐は手を打つとけらけらと一人笑いだした。



「あっ、なるほどね! フルラが名前か! 笑い出したのかと思った。人見知りなの?」

「はいいぃ……、なななんていうか、緊張してしまうのと恥ずかしくてそのぉ……」


 甲斐の方を振り返るも、まだ髪を持たれている。

 髪の毛の合間を見れば、顔が異常に赤くなっている。



「友達いねえだろ、お前……」



 心の声がそのまま漏れてしまったようなシェアトの発言に、フルラはとうとう泣き出してしまった。

 だが、そんなことはお構いなしに甲斐は髪の毛を持ったまま後ろへ下がる。


「いひゃいいひゃいいぃ……痛いですぅ…! なにするんですかぁ……」

「いや、 泣かれるとめんどくさいなと思って。ああ、あたしの事知ってる? 夕食のとき自己紹介してたんだけど」

「知ってますぅ……、凄いなあって……思いましたぁ……。堂々としててぇ、かっこよかったですぅ……」

「いい奴だな、フルラ。ちなみにこやつらも知ってる?」


 甲斐はフルラび顔を両手で包むと、くるりとシェアトとエルガに向けた。

 すぐに彼女は顔の熱を上げ、ぱっと目を逸らした。

 エルガは愛想よく手を小さく振ったし、シェアトは斜めに笑って見せる。


「えへへ……。知ってますよぅ……ミカイル君に……セラフィム君……そこで燃え尽きてるのがベイン君……かなぁ。三人とも、目立ちますもん…」

「僕らの有名度は今後、校内だけじゃ留まらないだろうけどね!」

「夕食の辺りからノイズが酷いな。とりあえず、月はやっぱりちょっと癖が強いんだなって事は分かった。寝るのは諦めるかあ、朝飯だ朝飯。そろそろ? まだ?」


 もう太陽はしっかりと存在をアピールしていた。

 体のだるさを感じながら甲斐は伸びをする。



「あー……だらだら向かってりゃちょうどいいんじゃねえか? おい、起きろ。行くぞ」


 ルーカスを小突いて起こすと、ぞろぞろと散歩がてらの朝食へ向かうことにする。

 フルラはおろおろとしていたが、甲斐に手首を掴まれて連行された。

 ホワイトレディは寝相が悪いらしく、噴水の水の中に浸かったまま寝続けていた。

 東館を出たところで、ふいにフルラが立ち止まった。


「ああああの」

「何? あ、そっちから行きたいの?」

「えええ、いやあのそうじゃなくてぇ……。私……その、散歩……しようと……あの」

「うん、聞いた」



 女子にしては低い声と、はっきりとした物言いのせいでフルラは一瞬、口ごもってしまう。





 このまま付いて行っていいのだろうか、一緒に居て彼女達はつまらなくないだろうか。




 甲斐が手首を掴んで連れて来てくれたが、このまま本当に一緒に行っていいのだろうか。

 こんな時、どう伝えたらいいのかが分からない。


 だが、甲斐は真っ直ぐ自分を見たまま、次の言葉を待ってくれている。



 何を言えばいいのだろう。



 いつも一人だった食事。

 もしかしたら、もしかしたらいつか一緒に食べてくれる人が出来るかもしれない。

 きっとそれは、今の自分では想像できないほど楽しいに違いなかった。


「あのあの、それで……えっと、私、えっ……と……」


「おーい? 何やってんだよ!」


「ほら、待ってるけど。フルラはどうしたいの?」

「い、一 緒にっ、いっ……いっても、いいいいで……すかあ……!」



 勇気を、出してみた。

 手も足も震えていたし、汗も凄い。


 それでも、勇気を出せたのは――





「(貴女を信じられたから……?)」





「はいはい、行くよ。……あ、次からは一緒に行けない時とか行きたいとこある時だけ申請して。それ以外は一緒に行く! 裏切るなよ~?」


 掴んだままだった手首を一度離し、今度はフルラの手を握って待っている三人の方へ進んで行く。

 その後ろでフルラはまた顔を真っ赤にさせているが、今度は顔を隠すことなく、笑顔のまま泣いていた。


 数秒後には甲斐に気付かれ、髪の毛をまた引っ張られるのだが。



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