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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第二十二話 ×××は君に輝く

 誰の物か分からない袋菓子を開いてみると、種のままだったポップコーンが数秒後には炸裂音と共に激しく飛び散りながら温かい出来立てのポップコーンになったり、明らかに袋の大きさを超えたような量のポテトチップスが出てきたりと甲斐を驚かせていた。


「み、ミラクルやで……!」

「ぶはっ! なんだ、その反応。こんなんどこでも売ってるぜ」

「マジっすか、素晴らしい! そうだ、みんなの年齢的にもここはいわゆる高校みたいな所なんだよね?」


 ポップコーンを口に放り込みながら聞くと、三人は少々考えた後に口々に答える。


「うーん……。まあ、高校といえばそうだけど魔法のみに特化して学んでいくのがここだし…。一般的な高校でやる様な語学とか、数学も習わないしね……」

「ちなみにここ、 倍率は基本的に六百倍超えの超難関校だぞ。世界中から志願者が来るけど少ない人数しか受かんねえし」


 六百倍という倍率に驚愕してポップコーンを器官に詰まらせると、お手伝い天使が即座に適度な温度と量の紅茶を差出した。

 その様子をエルガは肩を震わせて見ていた。

 甲斐の行っている高校も、決して倍率は低い方ではなかったのだが比較にならない。


「うえっほ、その超難関校にいる皆さんは超優秀ってわけですか! そうですか! どうします? どっか揉みましょうか? あ、靴磨きます?」

「お、落ち着いて。へりくだらないで。ちなみにここは統制機関の設立した学校だからね。卒業後は機関の部隊とか、医療の最先端の研究、参謀省や……他にも世界を回していくような仕事に就く人が多いんだよ。普通の高校も各国の地域にあるけど、魔法に関しては最低限しか教えていない上に規制もあるからね!文献も限られているし。だから簡易魔法しか使えないどころか、素質はあるけど魔法自体使えないなんてよくあることなんだよ」

「えっ、じゃあ世界中の誰でも毎日バシバシどんな魔法でも使えるって訳じゃないんだ!」



 丁寧な説明に甲斐も理解出来たらしく、目と口を同じ大きさにしてルーカスに大きな手ぶりを見せる。



「力量の差が出たり、自由にどんな魔法でも使えると便利なのかもしれないけど、危ない事に繋がるリスクが大きくなるしね。今、万が一そういった事件とかが起きたとしても対応できるよう、統制機関があるんだよ」

「へえ……、なんだかんだ上手いことやってんだねえ。それにしてもこの学校、そんな凄まじいとこだったなんて……。くそ、心なしか皆輝いて見えてきた」

「それは何故なら君が僕に恋に落ちたからだよ!」

「おぞましいことを言わないで」

「あ、そういえば、甲斐の組分けそろそろじゃない?」


 大きな振り子時計が午前一時を過ぎた辺りを示している。

 甲斐は前日も寝るのが遅かった為、現在時刻を見てしまうと途端に眠気がやって来た。


「ふあ……ふ、え? こんな遅い時間に始まるの? フリーダムだな魔法界」

「おお、ネクタイからなんだな。どうやって組み分けされんのか知らなかったから俺も見た事ねぇんだよ」


 ジャケットの前を開いている甲斐の腹部に下がるネクタイは皆とは違い黒一色だったが、白というよりも半透明の糸が幾重にも重なっていく。

 そしてそれは、あっという間にどんどん形を作っていた。


「僕も初日は疲れて寝ちゃったし先生方も教えてくれなかったから見逃したんだよね……。でも、こんな感じで出来ていくんだね。凄いな……」

「そういや、カイはどこの組がいいんだよ? 月組は無理だろうから諦めろよ」


 ふん、と鼻を鳴らしてシェアトは言う。


「分かんない、なんか楽なとこがいいな。あ、月以外ね」


 期待に満ちたエルガの視線から逃げるように甲斐は言った。


「じゃあ僕が毎日どんなことでもサポートしてあげられる月組に決定だね!」

「お前鼓膜敗れてんの?」

「あっ…! ほら、見て…!」


 ルーカスは食い入るように甲斐のネクタイを見つめていたが、思わず声を上げる。

 ネクタイの刺繍が完成したのだ。

 今度はジャケットの刺繍へと移行している。

 本人以外の視線が甲斐に集中した直後、それぞれが反応した。


「やったな! 俺と一緒だ! 太陽だぜ! 見ろよ!」


 座っていた甲斐の首元からほぼ無理矢理ネクタイを外すと、自分と同じ刺繍を目の前に近付けて嬉しそうに笑うシェアト。

 一方、彼と裏腹にエルガはテーブルに突っ伏してこれ見よがしに大きな泣き声を上げていた。


「カイ……やはり君とは障害の多い恋なんだね……! いいさ、その方が燃え上がる!」

「まあまあ、授業だって合同授業もあるでしょ? ね?」


 ルーカスがエルガをなだめているが、甲斐はルーカスに向けて眉を下げた。


「ルーカスぐらいさっぱりされるとむしろ寂しい。もっと嘆き悲しんでよ」

「えっ! ご、ごめん! でも……なんとなく、予想通りかなっていう―――痛い!」


 甲斐は膝よりも高い位置から思い切り振り上げて、ルーカスの足を踏んだ。

 そしてもう一度、踏みつけた。


「人生なんでも予想通りになんていきませんよ。もし今までがそうだとしても今後はあたしが予測不可能にし、常に貴様を混乱させてやるっ……!」



 にやりと笑う甲斐を見上げると、ルーカスは困ったように眉を下げつつとても楽しそうに笑う。

 そして、四人の夜会は完全に夜が明けきるまで続いた。

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