第二十一話 歓迎パーティ開催中
「あ? な、なんだよ」
思わず後ろを確認するが、そこにいるのは心配そうなルーカスと楽しそうに頬杖をついて眺めているエルガに、戸棚を閉め、両手に菓子を持ったまま何故か仁王立ちをしてこちらを見ている甲斐だった。
何もおかしなところは無いはずなのに、ビスタニアは一点を見たまま声が出ないのか口を開閉している。
そして数秒、甲斐とビスタニアは見つめ合っていた。
「何見てんだコラアア!」
目を見開いてビスタニアを恫喝した甲斐に、ルーカスがビクッと反応した。
「なんか珍しいもんでもあんのか!? 言ってみろコラアアア!」
甲斐はつかつかとビスタニアへ向かって行くと、ビスタニアは悲鳴に似た声を発し、連絡通路へ戻ろうと手探りでドアを探し出した。
だが、間に合わない。
あっという間に目の前には甲斐が来てしまった。
「……なーんちゃって! びっくりした!? さっきはどうもありがとう。おかげでというかなんというか、無事に編入生になれました。過程は聞いてくれるな……」
背中をぴったりと扉に密着させながら、不敵に笑う甲斐を見下ろし、今言われた言葉の意味を頭の中でリフレインさせるとようやく理解したようだ。
とうとう話しかけられてしまったが、案外まともな事を言うもんだと拍子抜けしてしまう。
「いや……別に聞きたくないから安心しろ」
「はい、これとこれあげる。ほら、受け取って早く」
手に持っていた袋菓子を右手ごと差し出され、怪訝そうに恐る恐る受け取った。
そのやり取りを見て、口が開いているのはシェアトだった。
「はあ!? 待て待て待て! 意味が分からん! カイが何であいつと知り合いなんだよ!?」
「さあ……? 迷ってた時に会ったんじゃない?」
場の空気が持ち直した事に安心したルーカスは、肩をすくめるとエルガの隣へ腰を下ろす。
「ねえ、これからパーティらしいんだけど一緒に朝まで語り明かそうよ! 本当? 良かった、じゃあ決まりだね!」
「俺は今、何も言っていないし、お前とあいつのいるパーティだか地獄の会合だかに参加するぐらいなら死ぬ方がましだ。それに早く寮に戻れ……ああ、まだ組分けされてないのか。とにかくここで騒ぐな、迷惑だ」
理解不能な会話にならないことばかりまくし立てる甲斐に対してビスタニアは完全に引いている。
「ビスタニア。君、女の子に対しての態度がなってないんじゃないか? シェアトに対する暴言は挨拶みたいなものだと思っているから流すけれど」
頬杖をついたまま笑顔を崩さずに、エルガの瞳はビスタニアを捉えていた。あまりにも冷たい視線から先に目を逸らしたのビスタニアだった。
しばらくの沈黙の後、手渡された菓子を甲斐に突き返して周囲を一瞥すると部屋の突き当りに左右対称にある階段の左側へ進み、荒く階段を上る音と共に消えていった。
「ありゃ、残念。パーティ嫌いかあ」
一切の空気を読まない甲斐は呑気に一言呟いた。
「カイの誘いを断るだなんて、 生き物としてあるまじき事だね! 信じられないよ! カイも迂闊に男性に近付いてはいけないよ! 唇を奪われたり、はたまた抱きしめられたりするかもしれないのだから!」
エルガが甲斐に近づいたが、甲斐は下がった。その距離は変わらない。
「喧嘩売っといてなんなんだよ、訳分かんねえ」
「えっ喧嘩売られたの? もっともな事しか言ってなかったと思うけど? ねえ、いつ売られたの?」
甲斐と同じように空気を読まない力としてはシェアトもなかなかのようだ。
「まあまあ、なんていうか……気が合わないんだよ、お互いにね。だから例えただの伝言を伝えられただけでも、こうなるだろうね」
ようやく四人全員が席に着き、菓子とルーカスの持ってきた料理を広げていく。
その中でシェアトがポケット取り出したのは夕食の際にテーブルに置いてあった呼び鈴だった。
鳴らしてみるとこんな時間にも関わらず、どこからともなくお手伝い天使達が現れ、全員分の飲み物をすぐに用意してくれた。
こうして、深夜の歓迎パーティがささやかに開催されたのだった。