第二百話 忠犬・飼い主・心はどこへ?
「……暑い。クリスちゃん、 あたし今熱中症と熱射病を併発しそうなんだけど。とりあえず、あたし達もう終わったから寮に戻ってて良いか聞いて来てくれる? 安静にしてないと倒れそう!」
「こんなにハキハキ話せる人は問題無いわよ……。それにしても急激に暑くなったわね……夏だわ……」
星組との合同練習の日、組む相手は自由だが今回の対戦相手はシャンが決める形になった。
太陽組と星組で組み合わせる場合の戦略としては、太陽の者がどれだけ早く相手をねじ伏せられるかの力勝負になる。
星組は軽いサポートと微弱な盾はなんとか作り出せるが、太陽組の攻撃が当たってしまえば一度目で盾は壊されてしまう。
なので弱い星組をいかに攻撃させずに相手を倒せるかが、決め手になっている。
太陽組同士の一騎打ちとなると、単純な力比べになってしまうので、あとは使う魔法をその状況にあわせて使いこなせるかも鍵となる。
そんな中で甲斐とクリスペアは早々に負けてしまい、他の決着が付くまで炎天下の中待機している。
森の傍ぎりぎりまで行って、木陰で休んでいられたのはものの三十分ほどで、すぐに日向に変わってしまった。
シェアトとルーカスのペアはなんとか目視が可能な距離でまだ激しく撃ち合っているようだ。
「やだ、私日焼け止めの美容魔法液持って来れば良かったわ……。カイ、持ってたりする?」
「まさかでしょ。あたしにティッシュ持ってる? って聞いてくるよりおかしな話だよ、それ」
「私、一応女の子の貴女に聞いたつもりだったんだけど合ってるかしら? 何もおかしい話じゃないわよ! も~……いいわ、今日は諦める。それにしてもシェアトってエルガ以外の指示に従わないとは聞いてたけど、凄い事になってるわね」
「ホントだ。死人が出てないって言われたほうが驚くレベルで大暴れしてるね。あれは仏のルーカスでも、終わった後地獄の審判開催しかねないわ……」
どこよりも激しく、そして豪快に黒煙が上がり続けている。
その巻き起こす音の中に、悲鳴が混じっているのも聞こえる。
「よくやるわね……。……カイ、シェアトの事正直どう思ってるの?」
「この返答にヤツの命がかかってるとかじゃない? 適当に答えても大丈夫?」
「そんな事態は早々起こらないし、起こったとしてもカイには絶対にその役目は回って来ないと思うから安心していいわよ。最近、シェアト……その、カイに対して凄いじゃない。だから、どう思ってるのかなって」
「……あたしに対して、凄い……?欲情してるの!? あたしが見ていない瞬間に鼻息荒くしてゲス顔で上から下まで舐めまわすように視姦してる……?」
「カイ、カイ落ち着いて? それはもう『どう思う?』 とかじゃないわ。事案よ。そうじゃなくて! ……彼、優しいじゃない最近。貴女限定で」
思い返してみたが、優しいというよりも野良犬がようやく人間に慣れてじゃれてくるようになったという認識だった。
クリスは一体全体何を言いたいのか、という気持ちがありありと顔に出ていたのか、今度は落胆している。
「……じゃあ、エルガとシェアトならどっちが好き?」
「えー……憎たらしさはシェアトの一人勝ちなんだけど、ウザさのトップはエルガだし……。難しいな……。なんで? 決めなきゃだめ? あの二人よりルーカスの方が一緒にいる分には楽だけどな」
甲斐の心の争奪戦に思わぬ一名が飛び入り参加だ。
そう来るとは思っていなかったが、彼女の言う楽と言うのは恋とはまた違ったものだろう。
だが、その言葉に膝から崩れ落ちた者がいる。
勝ち星を挙げ、意気揚々と甲斐の元へ向かって来たシェアトだった。
横にはルーカスが苦笑いをしている。
「……あれ、お帰り。シェアトのポーズが彫刻みたいになってるけど大丈夫?」
「……どうだか……。暫くはあのままかもね。あーあ、早く終わらないかしら」
もどかしい二人は、まだまだこのまま進んで行きそうだ。