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第百九十九話 フルラの想い

 最近、フルラには気になる事があった。

 シェアトが妙なのだ。


 どう妙なのかと聞かれても説明は難しい。

 今日の空は綺麗だと言われた時、明確に今までの空模様の統計が頭に浮かべ、本当に今日の空が綺麗かどうかを比較できるかと言われると圧倒的大多数が出来ないだろう。

 フルラの抱いている感覚はそんな不確かな物だが、確かにシェアトはこれまでと何かが違うのだ。




 今までと同じように甲斐やクリスと憎まれ口を叩き合ってはいるが、その合間や前後でおかしいのだ。




 例えば食事中、それぞれ会話をしたりメニューの中の何が美味しい等と話している中で誰より甲斐の話に参加しているのはシェアトだ。

 小さな一言ですら聞き逃さずに反応したりと騒々しい。


 一番そういった事をやりかねないエルガは案外大人しく食事をし、元々そんなに食べる方ではないようで早々に最後の紅茶やコーヒーを楽しんでいたりするのだから分からない。

 本人曰く、食べ過ぎや栄養過多はこの美貌を壊してしまうそうだ。



 そして移動中に見かける二人は、いや、シェアトはとても楽しそうに浮かれた調子で甲斐に話しかけている。



 その様子を見ているのは勿論フルラだけでなく、同じ月組なので共に行動しているエルガもいるのだ。

 そんな場面を一緒に目撃してしまった最初は、どう反応したらいいか分からずに冷や冷やしていた。

 吹き抜けを挟んで向こうの通路を歩く二人を見ながら、エルガは幸せそうな表情をするとフルラの視線に気づき、笑いかけた。

 安堵したが、彼の表情の意味もやっぱりよく分からないのだ。


 甲斐に対し、どうにかして骨を溶かそうとしているのではと思う程あんなに甘い言葉を吐く癖に、甲斐が他の異性と楽しそうにしていてもエルガに微々たる変化は無い。

 それどころか、その様子をまるで嬉しそうともとれる瞳で見つめていることすらあるのだ。




 それが彼なりの好意の示し方なのかもしれないが、フルラにはどこか違うようにも感じた。



 

 シェアトは休日に甲斐よりも早く起きて、彼女が出て来るのをロビーで待っている。

 これを知ったのは最近だった。

 

 皆から問い詰められた彼は偶然だとか、嫌な夢を見たせいだと事細かに言い訳を述べていたがその言葉を信じている者はいないだろう。


 夜だって、皆でいる最中に甲斐が眠そうにしていると、シェアトも急に欠伸を連発して寝たふりまでし出す始末だった。

 そして狸寝入りをしていると置いて行かれ、遠ざかる足音に敏感に反応し、素早く目覚めると先に戻った甲斐をわざとらしく薄情だなんだと罵ってから走って追い掛けていくのがパターンになっている。

 ロビーの扉が閉まると同時に、物凄い速さで走って行く足音が響いていて皆にばれているという事に、気が付いていないのだろうか。

 そんな彼を忠犬のようだとルーカスが言っていたが、例えの上手さに感心してしまった。


 もしかすると、ひょっとすると、彼にこの妙な行動を取らせている原因は、恋なのだろうか。

 人を変える程に、常に追い掛けてしまう程に、誰かが愛しくなるものなのか。

 分かるようで、分からない。


 甲斐を取られてしまったような寂しい気持があった。



 私だって、たくさん話したいのだ。

 私だって、一緒に授業を受けてみたいのだ。

 私だって。



 叶う事と叶わない事。

 分かっているが、羨ましいものは羨ましいのだ。



 かといって、独り占めをしていたいという訳でもなかった。



 たまに二人で話す事だってあるが、それ以上に皆で集まってわいわいとしている時も笑いすぎて涙が出てしまうほど楽しい。

 そして、決まってそうしているといつの間にかそんな思いも嘘のように消えてしまう。

 特にシェアトと甲斐の口での攻防戦は本当に息が合っている。


 皆が大好きで、でも、それ以上に甲斐のことが大好きで。

 泣いても笑っても卒業する日が迫っていく中で。


 どうして、何かを変えようとしてしまうのだろう。


 どうして、このまま皆で笑っていようとしてくれないのだろう。

 一体彼はこれ以上に、何を望むというのだろう。



 ああ、このピンクの頭は中身もどうやらお子様仕様のようで困ってしまう。

 これは、誰にも言えない。

 言える訳が無い。

 幼い私が毎日心の内側で小石を蹴飛ばす理由は、只のヤキモチなんだから。



 変わる事、変わらない事。



 どれもはっきりとするその時までは、幼い自分をどうにかなだめすかしておかなければ。

 今も、これからも彼女がずっと笑っているように。

 幼い自分が泣き止んだら、毎回一緒に強く願うのだ。

 次に彼女の笑顔を見られた時に、願いの力を信じている幼い自分が小さくガッツポーズを出来るように。


 波のように押し寄せては引いていく気持ちの中で、うっかり捕らわれて溺れてしまわないように。

 足を取られる砂浜のような中を、たくさんの足跡を辿ってゆっくりと歩きながら。

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