第百九十三話 赤い終焉
次の転送先は、攻撃が激化している中心部から少し離れた場所だった。
ギャスパーの只でさえ優れない顔色が、更に悪くなる。
「参りましたね……。ここまで激化するとは。まだボスをやれてないのか。君達はとにかく隠れて逃げて下さい。下手に戦おうとしないで」
「……足手まといって事か。チッ……」
戦場でただの一学生が役に立たないのは言うまでもないだろう。
だが理想とかけ離れた現実を受け止めきれていないようで、シェアトは吐き捨てるように言った。
それを無視してギャスパーは、ケヴィンの付けていたスコープと同じ物を装着し、堂々と歩いて行く。
「殲滅します」
道路の中央に立ち、どこからともなく飛んできた攻撃に臆することなくそう言うと、四方八方敵のいる全ての場所へと的確に目視するのも難しい速度と数量の刃を送り込んだ。
一度辺りを見回し、成果を確認するとなんの感情も現さずに、再び激化している場所へと向かい始めた。
圧倒的な力と、それを振るう事に迷いなど無い。
周囲を警戒しながら後を付いて行く甲斐とシェアトに向けてどこからか放たれた攻撃すらも、振り向かずに相殺した。
そして目的地に到着した頃には、ある程度片付いていた。
倒れているのは敵のみで、部隊の面々は一人の男を前に動けずにいるようだ。
その男は画像で見た人物そのものだったが、多勢に無勢のこの状況の中、恐れなど無いと言わんばかりに怒りに燃えた瞳をしていた。
「あ、写真の人だね。……ボスってやつ?」
「そうですね、ボスってやつです。兵を集めて厄介事を引きこ起こした頭ですから、生け捕りをしなければならないのですが……どうやらもう終幕ですね」
ボスと呼ばれた男は自分が生きて残される事を知っているのかいないのか。
彼の首筋には光る線が巻き付いていた。
どうやらそれは取り囲まれた時にボス自身が発動させたようだ。
このままでは自害してしまう恐れがあるようだ。
「俺達が何故、剣を抜いたのか分からないか!? お前らの生きるこの世界はそんなに美しく、綺麗なものなのか!? 俺達の瞳にはそうは映っていなかった! この薄汚れ、壊れかけた世界を、変えたいんだ!」
「もう一度言う、全魔法を解除しろ。お前の他の場所にいた仲間はこちらで捕らえている。大人しく投降すれば、仲間の安全も保障しよう」
「……仲間の安全、か。いつだって俺達には安全など無かった。お前らに与えられる物など屈辱でしかない! そして……そんな汚れた安寧を欲する愚かな者等、俺の仲間にはいない! なめるなああ!」
叫ぶボスは両手で首の横の何かを掴むと、思い切り左右に引こうとした。
だが、それは叶わなかった。
何故ならその両腕は肩からばっさりと切り離されてそのまま下へ落ち、首元に巻き付けていた魔法もこの一瞬の出来事に気を取られたのか消えていた。
甲斐の目には、起きている全てがスローモーションに見えていた。
思考は完全に停止していた。
眠い中、興味の無い映画を見ているのに近い状態で、ボスの口は縫い付けられたように開かなくなり、バランスを崩して道路に倒れ込んだのをただ見ていた。
ボスの瞳は血走り、爆発してしまうのではないかと思うほどに顔が赤くなっていた。
切り落とした肩の辺りを即座に焼いて止血している隊員。
その記憶を最後に、甲斐は意識を手放した。