第百九十一話 戻らぬ彼に弔いを
場所は市街地だった。
街並みは外国的で、日本にはない造形と密集感である。
建物の外壁には攻撃のせいなのか大きな穴が空いていたり、酷い物は半壊している。
人の影は特に見当たらないが、ケヴィンが甲斐へ頭を下げて付いて来るよう、手で指示を出した。
風が吹き付け、建物の間を回る音が聞こえる。
本当にここに先に行った特殊部隊がいるのか疑いそうになる程に静かだった。
ケヴィンは車や建物に沿って姿勢を低くしたまま進み、一定の間隔ごとに辺りを見回すと曲がる前に小石を進む道に投げた。
道の上に落ちた瞬間、小石が砂へと変わった。
「トラップ発見、っと。てことはここには敵はいなそうだねぇ。他を回るよ」
「……他の人達はどこにいるの?全然見当たらない……。もっとドンパチやるもんかと思ってたけど違うんですね」
「ん? 仲間はある程度散ってるけど近くにもいるよ、前方二時の方向かな。ドンパチやりたいの? おいおい勘弁してくれよ~、俺はそういうの極力避けたいんだから」
そう言った時だった。
ケヴィンが前方二時と示したばかりの方角から、炸裂音と共に黒煙が立ち上った。
「ワオ、ご希望の展開かな。トラップ如きじゃうちの部隊は潰せないからね。俺と同じ足取りで付いて来て、姿勢は低くね」
先程の爆発を皮切りに、周囲一帯から続々と攻撃音が聞こえる。
二時の方向に向かいケヴィンは進んで行くが、その脚は早く、低い姿勢のまま甲斐は置いて行かれないように必死だった。
石が砂になるような罠があるのだから、人間が掛かってしまったらどうなるのだろう。
甲斐には分からないし、知らない方がいいだろう。
絶対に体験などしたくなかった。
いつの間にか右目にスコープの様な物を装着している彼が周囲を見渡し、立ち止まると前を向きながら小声で言った。
「ここで少し待って、おかしな奴がいたら絶対に焦らずに、状況を見て対応して。ああ、そうだ。絶対に倒そうとするなよ、クレイジーガール。いいか?まずは自分の命を守るのを優先して、後は大声で俺を呼ぶこった」
「あいあいさー!」
甲斐の間の抜けた返事にがくっと肩を落とし、自分の足元に光を集めると強く踏み込む。
そして一歩で向かいの建物の屋上へと無音で飛び移った。
そのせいで甲斐は顔に思い切り掛かった砂にむせ込みそうになるが、音を立てない方がいいのかと口を両手で押さえて我慢する。
次に目を開いた時、彼の姿は何処にも無かった。
待てと言われたが、敵からこの場所は見えているのだろうか。
攻撃が来た時に備えて防御魔法を展開させるべきか、そんな事がふと浮かんだ時だった。
本当にすぐ近くで、何とも表現しがたい声が聞こえた。
そして地面に倒れるような音。
続いてがさごそと何かを探る音も聞こえる。
何をしているのか気になりはしたが、この場で自分が唯一出来る事は『指示に従う事』だ。
とりあえず、彼の真似をして周囲を見渡してみる。
特に変わりはないように見える。
敵の姿があるよりもましだが、どこにも相手の姿が見えない今の状況も不安だった。
ようやくこちらに向かって来る足音が聞こえ、安心したせいか甲斐に笑顔が戻る。
シェアトは無事だろうか。
彼らはどの辺りにいるのだろう。
「ケヴィン、おかえりなさ……い……」
甲斐を見た途端に口を斜めに引き上げえ歪に笑い、人差し指と中指をこちらに向け、親指を立てているのは知らない男だった。
手のかたどる形は、二つの銃口のある銃だろうか。
後退した額に、頭のほぼ真上でまだらな金色の傷んだ髪の毛を結んでいる。
歪んだ口元から覗く歯並びは悪く、黄色かった。
彼がティーシャツの上に来ているベスト、それは甲斐と同じ物だ。
貧相な体つきに対してベストが妙に大きく見える。
それが何を意味しているか、頭は理解するのを拒んでいる。
「Bang! ハローハロー、可哀想に! 迷子でちゅかあ? それとも先輩に置いて行かれた新人ちゃん……でちゅかああああ?」