第百九十話 W.S.M.Cへようこそ!
「敵は全て殲滅しろ、生きて残すのは首謀者とみられるこの男のみだ。名は知らなくていい。フェダインから本日二名が体験に来ている。護衛にあたる者はケヴィン! ギャスパー! お前達二人だ」
『W.S.M.C』の拠点で隊員達が二人を横目で見た。
達、といっても思っていた以上に少ない。
ここにいる彼らはたった四人で、その足元にはそれぞれに割り当てられたスポットが光っている。
いつもは作戦室で説明があるのだが、今回は甲斐達もいる為、比較的広いこの場所での説明となっているそうだ。
全員に作戦を説明しているのは、部隊長であるヒューだった。
大きく天井近くまで拡大されているのは何で撮ったのかは分からないが、どれもカメラ目線ではない男の画像だった。
気さくそうに笑う男はスキンヘッドに眉毛が無く、どの画像でも原色のタンクトップを着ており、少し鼻が大きい。
甲斐とシェアトは学校からスポットで送られて来たのだが、挨拶や自己紹介をする間もなく着替えさせられた。
頭には皆はしていない顎の所で固定するヘルメット、長袖の伸縮性のある黒いアンダーシャツは耐火魔法がかかっているそうだ。
そしてその上には全てが灰色の物を装着していく。
対魔法がかけられているポケットの多いベスト、切りつけられても穴すら開かない足首までのパンツを履かされた。
そのパンツの裾は重い革のブーツの中にしまい込んで、靴ひもを締める。
ごわごわするので気になっていたが、暫くすると慣れてきた。
ケヴィンらしき男が甲斐にウィンクをする。
部隊の人間らしい屈強な体つきをしており、澄んだ青い瞳が特徴的だ。
髪の毛はオレンジ色で、これは敵に見つかりやすいのではと余計な思考が働いてしまう。
シェアトの担当であるギャスパーと呼ばれた男は、顔色が悪くお世辞にも綺麗な顔とは言えなかった。
目の下にはクマがあり、シェアトと同じような細さの彼がぺこりと下げた頭は灰色でそれがまた年齢を底上げして見せているようにも思える。
「準備が出来た者から出撃しろ! 今回は神の子はいない、動けなくなる前に自分の足で戻れよ。分かっているとは思うが倒れた味方に構うな。倒れたとしても助けを誰にも求めるな! 一瞬の判断の差が、味方を殺すぞ」
敬礼を揃えて行うと、一斉に右足を踏み出してスポットへ踏み出した。
前の人間が邪魔でヒューの姿が甲斐には見えなかったが、ようやく対面となった。
彼が来ている制服は、映像に入っていた大人のシェアトの来ていた制服とほとんど同じものに見えた。
違うところをあえて挙げるとするならば、あの映像のシェアト程勲章が付いていない事だ。
目が据わっているというのを体現したような瞳、真一文字に結ばれている口からは奮い立たせるような声が飛び出していた。
横にも縦にも大きいヒューは、濃い茶色の髪を短めのツーブロックにしている。
着ている物の重みは然程無く、動きやすさも十分だった。
ケヴィンが甲斐の横に立ち、笑顔を向けた。
「やーっぱり女の子だ! 日本人の名前なんて俺分かんないからさ、どっちかなーって思ってたんだよ。うちを志望してくれたのは嬉しいけど、それにしても小さいな。吹っ飛ばされないでよ?まあ、うちにもカイちゃん位の身長のヤツいるけどね」
「よろしくお願いします、ケビンさん。あの、髪の毛はどうしたらいいですかね。切り落とします?」
「極端だなー! ねえ、カイちゃん危ないクスリとかキメて来ちゃった訳じゃないっしょ? ほれ、縛んな。それと俺はケヴィン。ケビンでもまあいいんだけどさあ」
渡された紐で髪を纏めてどうにか結ぶと、ケビンに抱きかかえられそのままスポットに入った。
それを見たシェアトは頭の血管が何本か切れた気がしたが、ようやくこちらまで辿り着いたギャスパーに挨拶を交わす。
「シェアト・セラフィムです! 宜しくお願い致します!」
「……あーはい。名前は多分忘れちゃうからいいよ……。じゃあ、行くよ。敵見つけたら排除ね。排除、分かる? 息の根止めてって事。出来ないならしなくていいから、死なないでね。私の責任になっちゃうから……」
それだけ言うと勝手にスポットに足を踏み入れてしまった。
このスポットのどれがどこに通じる物なのか分からず、ギャスパーと同じスポットから行く事にした。
ようやく拠点内にはヒューが一人となり、煙草を二本取り出すと両方に指で火を付けた。