第百八十九話 男子の恋バナ
いつものうるさい女子達は夕食が終わると、女子会だと言って甲斐の部屋に集まりに行った。
少しでも思い出を作っておきたいのか、最近は前よりも女子三人で固まっている。
職業体験にはエルガ以外が参加するようだ。
女子三名がいない夜は、男同士外に出て無茶な魔法攻撃を作り出したり、下級生に悪戯を仕掛けたりしていたが、今夜は珍しくルーカスの部屋にシェアトだけが来ていた。
薄情な事にエルガは甲斐が女子会だと言うと、そそくさと自室へ戻ってしまったのだ。
シェアトの部屋は何故か、いつも荒れているので誰も提案しようとはしなかったし、かといって今日はいないエルガの部屋は、何故か甘い香りが立ち込めておりそれを毛嫌いしているシェアトが断固としていつも入室を拒否していた。
あまり互いの部屋に立ち入ることは無いが、こういう日は絶対にルーカスの部屋が選ばれるのだ。
「なー、俺達って今年で三年だよな?」
「そうだよ、少し寂しくなるよね。これだけ毎日やかましいと、離れた後が想像できないよ。シェアトの番だよ」
「お、悪ぃ。『フ』、ゲット! だけどいらねぇんだよなこいつら。ルーカスは好きな奴とかいねぇの?」
「えっ僕? カイ達としか毎日関わってないし、そんな相手いないよ。シェアトは本当に恋愛系の話好きだよね。 カイ達の女子会に混ざってても違和感無いと思うよ」
一度、下級生の話し声が聞こえたことがあった。
大人の色気と美しい容姿に似合わず怒りっぽいが面倒見がいいクリス、甘い少女系の守りたくなるような可愛らしいフルラ、そして自由奔放で下級生を殴り倒す程気性が荒く、腕っぷしも強いと名高い黒髪少女の甲斐。
彼女達と仲の良い先輩たちはよりどりみどりで羨ましいと。
これにはルーカスも苦笑するしかなかった。
彼女達は確かに一見すると可愛い女の子なのかもしれないが、世間一般の女の子像からどこか斜め上辺りにずれている気がする。
「へーえ。そうかよ……あっ畜生『ヒシャ』持ってかれたか」
どこかほっとしたような声が聞こえ、甲斐に教えて貰った日本のボードゲームの盤面から顔を上げると機嫌の良さそうなシェアトの顔があった。
「……シェアト、もしかして好きな子でもいる? はい、『カク』さんも頂き」
「はあ!? なんでそうなんだよ!? 意味分かんねぇ!」
適当に置いた駒のせいで、シェアトは窮地に立たされていた。
動揺しているのがありありと分かるが、ルーカスはあえて何も言わない。
「あっ、くそ。『オーテ』なら『オーテ』って言えよな!」
「シェアトも、好きなら好きって言わないとね。……どうする? もう一回やる?」
「なんっ……!?は!?お前何言って……!」
「あ、でも勝機を見つけてからにしてほしいかな。シェアト、フラれたら凄い荒れそう」
にこりと微笑むと、シェアトは顔を赤くしたまま何も話さなくなってしまった。
好きな相手は、なんとなくだが分かってはいる。
果たして上手くいくだろうか。
相手が彼女でなかったらいいのにと思う気持ちが、自分の中に無いと言えば嘘になる。
だがそれ以上に、彼らだけでなく皆が幸せになるようにと思ってしまう。
それほど、今はもう、皆の事を好きになってしまっていた。