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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第十八話 違う視点で見てみよう

 夕食前に教員達の入場で校長の隣にいる女。

 あれは午後に出会ったハレンチ女じゃないだろうか。


 友人とテーブルを囲んでいたビスタニアは、ひゅっと息を呑んだ。

 隣に座る友人もまた、ビスタニアと同じようにプライドの高さと個性が全面に出ている。


 壇上に上がった少女は黒のジャケットとネクタイ姿は、歩く度に揺れる東洋人らしい黒髪によく似合い、どこか凛として見えた。

 赤字に黒色のチェックのプリーツスカートの丈はどうも短い気がするが。

 まさか、もしかしたら別人かもしれない。

 東洋人など見慣れている訳でもないし、皆似たような顔なのかもしれない、と急に挙動不審になった自分を心配する友人に取り繕いながら気を再度持ち直す。


 いつも冷静で、ナヴァロ家の長男であることを名誉としているビスタニアは常に周りへの振る舞い方は徹底していた。

 それなのに今の彼は動揺し、深呼吸までしているのだ。

 その姿に周囲がざわめいた。


 そして、不愉快な声が静寂の中で響いた。


「シェアト!」 


 あれは確か屑星の奴だ。

 静かにすることすらできないのか、猿以下だ。


 ふと気付いた時には校長はもうご自身の席の前に立たれている。

 そして、その後ろに立っている東洋人の説明をするとお決まりの台詞を言って彼女を前に出した。

 編入生という制度があることは知っていたが、実際にその制度を目の当たりにするのは初めての事だった。

 もしかすると彼女は物凄く優秀なのかもしれない。

 よく見ていると、先程はあんな女と会話してしまったから見間違えたが、聡明そうな顔をしている気がしてくる。

 緊張のせいか周囲をきょろきょろと見渡している彼女には愛嬌もあるように見える。


「初めまして、カイ・トウドウです」

「ど畜生!」

「ビスタニア!?」


 ビスタニアが発した言葉と声量に驚き、昔からの友人であるウィンダムが間髪入れずに呼びかけた。

 二人は幼馴染で昔から仲が良く、時にはライバルとして競い合った事もある。

 どんな時でも的確な判断と、慌てずどっしりと構えているビスタニアをウィンダムはどこか尊敬していた。

 だが、先程から何かそわそわとし始めたと思えば今度は奇声を上げたとなってはただ事ではない。


「あ、ああ……すまない。その、なんだ……ちくしょうじゃなくてな……」

「い、いや……構わないよ。どうしたの? さっきから何かおかしいけど」


 言い訳を考える間もなく、この直後に食堂内は甲斐のスピーチによって見事に凍り付いた。

 ウィンダムは呆気に取られながらも、右の眉が何度も痙攣しているビスタニアの顔色が優れない事の方が気になっていた。

 彼女のスピーチが終わると夕食が始まったが、周囲は破天荒な編入生の話題で持ちきりとなっている。


「もしかして、ビスタニア……さっきの編入生と何かあった?」


 ウィンダムは、個性的な髪形をしている。

 両サイドのみが長く、染めているのか地毛なのかその部分だけは黒色で、そこ以外は白に近い金色だ。

 左耳には家の紋章の入ったピアスの他に様々な形のピアスをしている。

 ビスタニアと同じ月組の刺繍がまるで誇らしげに輝いていた。


「いや……考え過ぎだ、ウィンダム。少し嫌な事を考えてしまったんだ。俺らしくないな、本当にすまない」

「そうか……。もし何かあるなら言って? いくらでも聞いてあげるから」


 甲斐がシェアト達のテーブルを目指して来ている。

 徐々に近付いて来ている事に気が付いたビスタニアは、即座に唯一長い右側の髪の毛を顔にかけて下を向いた。

 あんな女と知り合いだなんて、周囲へ万が一にでも、いや、死んでもばれたくはなかった。



「それは一体どういう反応なんだいビスタニア!?」



「ん?」



 幾度も陽気な生徒達に声をかけられながら、テーブルの合間を縫って近道を探していた甲斐はウィンダムの大声に気が付いてしまい、何故か進路を変更してこちらへと向かって来る。


「やあ、編入生の子だね。さっきは随分とユニークな自己紹介だったじゃないか。僕はウィンダムだよ、よろしくねカイちゃん」


 甲斐はウィンダムの髪形をじっと見た後、鼻で笑うと隣で髪の毛にまみれながらこれでもかという程下を向いている赤毛に気付いた。

 顔を覗き込むような体制を甲斐がとると、ゆっくりと体ごと椅子からテーブルの下へと沈んでいく。


「ほ、本当にユニークなようだ。な、何が一体君をそうさせているんだいビスタニア!?」


 完全にテーブルの下へと隠れ込んだビスタニアにウィンダムはテーブルクロスを持ち上げて呼びかけるが、ビスタニアは無言を貫いている。

 そうしている間に甲斐はテーブルの上に並んだ料理の中から歩きながら食べられそうなものを幾つか手にすると、虫を見るような目でウィンダムの髪形を見て無言で立ち去って行った。



 甲斐の気配が消えると、ビスタニアはまるで普段通りの振る舞いで椅子へ座り直した。



「さて、食事にするか。ウィンダム、何か取ってやろうか? パイなんてどうだ?」

「い、いや……せっかくだけど大丈夫だよ。……ありがとう……」


 食事を早々に終えると、何か言いたげなウィンダムを残し、課題に必要な資料を集めると言ってビスタニアは席を立った。

 食堂を出て人の少ない北館の方へ遠回りをして向かいながら、ビスタニアは独り言を始めた。


「(なんたることだ……! いや、だがあの場であの女に下手なことを話されるよりは……! それにしてもなんと忌々しい女だ……!)……ん?」



 北館に着くと、ちょうど何人かが中へ入って行った所だった。



 夕食の後だというのに、やはり熱心な生徒も多いなとビスタニアの表情は少し緩む。

 道沿いのベンチに腰を下ろして頭の熱を冷まし、そろそろ心配しているウィンダムの元へ戻ろうかと思った時、北館から誰かが出て来た。

 そして、こちらへ歩いて来る。


「ああ、びっくりした……! なんだ、貴方なの」


 驚いた声をあげた彼女に対し、甲斐に対するものとはまた違った視線を浴びせる。


「……何か?」

「一人でこんな暗闇に座ってるなんて、誰でも驚くわよ。誰かと思っただけ。……何してるの?」


 その問いに対して目も合わせず、何も答えないままベンチから立ち上がると、クリスを置いて歩き出した。

 それを追うでもなく、クリスはその背中を見送るとビスタニアが座っていたベンチに座り、目に焼き付けるように星空をしばらく見上げていた。

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