第百八十八話 職業体験決定
職業体験を受ける生徒が夕食後、寮別に集められていた。
今回の募集では太陽組はシェアトの希望している『W.S.M.C』を含め十数件の職業が許可したようだった。
ただ、これに参加するには自身の血印が必要となる。
一人二部ずつ渡される契約書類の規約に目を通していくと、体験中に万が一本人が怪我・死亡した場合に一切の異議申し立ては認めない等といった物騒な文が並んでいる。
そしてそれに同意し、名前の横に指を置くと勝手に親指が切られ血印が押された。
それが終わると一部が学校用、そしてもう一部が各機関や企業に送られていった。
契約書を仕上げた者から、当日の予定の書かれた案内状が机に現れる。
恐らく契約書内の一切の文言を読んでいないであろうシェアトが、当日の予定を見て声を上げた。
「……あん? 俺ともう一人『W.S.M.C』希望がいる。誰だ?」
「あ、それあたし。そうだ、何だかんだで言うの忘れてた。受けるの、あたしも」
甲斐の言葉は聞こえているはずなのに、真顔のままシェアトは何も反応しない。
もう一度言うべきか甲斐が迷っていると、想像以上の声量で驚き始めた。
「はあああ!? なんでだよ!?」
「やかましい。そんな事では推薦など出来んぞ。契約書を書いたら案内状を持って解散だ」
案内状を四つ折りにしている最中ずっと、うるさい視線が甲斐に纏わりついていた。
教室を出た時にシェアトが前に立ちはだかった。
「聞いてねえぞ! しかも職業体験に行くだあ!? お前この前俺にも負けてたじゃねぇか! あれでも俺は手加減してんだぞ!? あれが本物の爆弾だったらどうすんだよ、お前ら纏めて死んでんだぞ!」
「ごめん、最初から言って?思ったよりもまともな事言ってた……? どうせシェアトだからと思って聴力消してた……」
「器用だなおい! だーっ、お前はなんていうか分かってねぇんだよ! ハッピーな歌が流れる中で可愛いお菓子を作ってにこにこ売ってるとこじゃねぇんだぞ!? 俺か!? 俺の言い方が悪いのか!?」
「でも、今ここでシェアトがぐだぐだ言おうがどうしようがあたしは行くよ。止めても無駄、決めたもん」
「なんっっでだよ!? エルガがこの事聞いたらそのまま死んじまうぞ!? 俺達の職業体験の日にもしかしたら本当の戦場に行く事になるかもしれねぇんだ! 遊びじゃねぇんだぞ!?」
「それも分かってて、シェアトは行くんでしょ? まあ、理由としては……シェアトが『W.S.M.C』に行くから、かなあ」
まくし立てていたシェアトの言葉を話半分に聞きながら、深い意味も無く素直な気持ちが口から零れる。
それを聞いたシェアトは急に黙ってしまった。
みるみる耳まで赤くなり、急にどもり始める。
「はっ……? なっ、何言ってんだよ! 誤魔化そうったってそうは……」
とうとう目が泳ぎ始めたがシェアトは首も赤くなってきている。
対照的に何故こんなにも照れているのか分かっていない甲斐は、動き続けている彼の目を追いかける。
「とにかく、来週はよろしくね。うるさいからエルガ達にはまだ言わないでよ。四六時中追い掛け回されたくないもん」
特に、エルガにだけはまだ隠しておきたい気持ちがあった。
一緒に来てほしいと言った彼が、シェアトと共に歩む道を選んだことを知ったらどう思うのだろう。
あれが本当に冗談であって欲しいと思うのは、卑怯だろうか。