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第百八十六話 甘党王子の助言

 珍しく太陽組のロビーで皆集まり、休日を過ごしていたのだ。

 寝坊してきたエルガが月組のロビーにクロスがいたと言っていたので、からかいがてらに顔を出したのだが、甲斐は今、後悔していた。



 腫れた拳は力を入れると、軋むように痛む。


 皆の元に戻るわけにいかず、暖かい日差しを浴びながら一人、外を歩いていた。

 


 あんな言葉を言えるほど、兄弟間の仲が悪いとは思えなかった。

 あの日、森に閉じ込められたクロスは一人の心優しい少年だった。

 その証拠に付いて来てしまった龍を授業中は部屋に入れてはいるが、食事時や休日はちゃんと後ろに従えているのだ。


 だからこそ、本心でないからこそ、許せなかったのかもしれない。

 しかし、思い切り三つも年下の男の子の頬を拳で殴り付けたのは若干やりすぎてしまった気もする。



「……でも、死んでなくて良かった……。首が一回転したのかと思う位吹っ飛ぶんだもん……」

「カイ……誰を殺そうとしたの……? その手は……?」



 声を掛けようとしていたルーカスに気付かず、通り過ぎようとしていた。

 真っ赤になっている手を見ている顔は引きつっている。



「……一番話をこじらせない僕が迎えに行くようにエルガに言われたんだ。まさかとは思ってたけど、カイはどうして平和に縁が無いのかな。はい、多分もう暫くしたら痛みも完全に無くなると思うよ」


 芝生に腰を下ろし、手を治療して貰うとすぐに腫れは収まった。

 初めて治療を受けたが、終わってからもどこか心地が良い。


「ありがとう。……クロス君、ぶん殴っちゃった……」

「ああー……。本当に彼は生きてるんだよね……? なら、まあ……。彼の方が重傷だと思うけど、治癒室もあるし……。き、きっと大丈夫だよ」


 何かを察したのか、ルーカスは理由は聞かなかった。

 誰かに肯定してほしい訳でも、否定されたい訳でもない今のこの気持ちにはその気遣いがちょうど良かった。


「さあ、立って。エルガとシェアトがカイはどうしたって騒ぎ出す前に戻ろう」

「……もう、仲良くなれないかなあ……」


 甲斐は足元を見たまま、ぽつりと声を落とした。

 ルーカスは薄い水色の空を見ながら答える。


「……このまま時が経ってしまったら難しいかもしれないけど、仲良くしたいなら悪いと思う方が謝るだろうし大丈夫じゃないかな」



 考えているのか、返事は無かった。

 そして、彼女の足が止まる。



 ようやく合った目線の高さは、最初に出会った時よりも差が大きくなっている。

 恐らく彼女よりも背が伸びたのだ。

 普段は自覚する事は少ないが、こうしてみると大分伸びたものだと思う。



「……ちょっと、トイレ。後で、太陽行くから」

「そう、じゃあ待ってるね」


 駆けて行く前の彼女の表情は、珍しく緊張したものだった。

 くるくると変わる気持ちも、それに反映される顔も全て子供の様で吹き出しそうになる。

 やはり悪い事をしたと思っているのだろう、ばつが悪そうに謝りに行くと素直にいえない彼女が可愛くも思えた。





「……それにしても、もっと良い言い訳を思いついてもいいと思うんだけど……。まったく、お子様カイちゃんなんだから」

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