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第百八十四話 鳥使い・エルガ

「シェアト、ルーカス。クリスに照準合わせて、一斉に攻撃」

「僕、女の子相手に攻撃ってどうも苦手だな……」

「手抜きすんなよ! 俺が殺されたくなきゃ全力出せ……!」


 盾から体を半分ずつ出した二人がクリスに向かって一斉攻撃を仕掛けた。

 簡易的な防御魔法は次々と撃ち込まれる攻撃により、亀裂が入り始める。

 クリスは顔をしかめながら、悪くなった視界を頼りにせず、そのまま加速して真っ直ぐ正面から相手に向かって行く。


「……ああ、クリスちゃんの魔法がもうもたないよぅ……。こっちの盾を解除して、カイちゃんにも防御魔法かけるからサポートに回って! 本当はクリスちゃんは特攻なんてしちゃだめなんだよぅ……。星組が特攻っておかしいよぅ……」

「へいへいほー。フルラ、サポート魔法で足早くなる奴あるならかけて。二秒で向かうよ」

「あ、うん! はい! クリスちゃん! その武器もある程度ならもうちょっとだけ攻撃防げるから耐えてねええ!」



 槍を振り上げてエルガの盾を壊そうとしているが、激しい閃光が走り、クリスは後ろに弾き返されてしまう。

 しかしそのおかげで二人の攻撃の狙いが外れ、地面に穴が空いた。

 後ろからは甲斐が宣言通り、飛ぶように迫り来る。



「……お姫様が来ては厄介だな。盾を解除する! ルーカス、下がって。ステルスかけておくけど影までは消せないから、日陰に退避。シェアト! 全力を出して良い。さて、僕は退避しておこう。勿論サポートはするさ」


 瞬時にエルガが魔法を切り替え、ルーカスは全力で日陰へと向かい、到着と同時にステルスがかけられた。

 もう彼の姿を追える者はいないだろう。


 エルガはどこからともなく、成人男性の三倍はあろうかという高さの鳥を召還した。

 鳶の様な色をしているが、その足と爪は黒く、見るからに強靭で掴まれた者は絶対に逃げられないだろう。

 頭を下げた鳥は黄色い猛禽類の瞳を閉じ、エルガが上に乗ると何度か羽ばたくと風を巻き起こして舞い上がった。



「ったく、三対一かよ。……どいつもこいつも無責任というか、俺様の実力を信用し過ぎてるつーか……。ご期待にお応えしてやるか!」



 一方で弾かれたクリスに追いついた甲斐は、もう明らかにもたなそうな防御魔法の状態を見て、下がるように伝えた。

 握り締めていた槍は刃先が欠けている部分もある。

 それほど強靭な盾だったのか、フルラが力を分割しながら召還した物だったからなのかは分からないが、どの道もう使い物にはならない。



「……無念だわ。でも私もまだダウンしてないから、後は任せたわよ」

「うん、パンツの恨みは晴らしてくるよ。……ねぇ、ちなみにだけどあれって見てもらう為のものではないの? それとも誰かに見られる度に布の面積が減ってく魔法がかかってるの?」

「カイ、私、もうこの下着ここで脱いだ方が良いかしら?」


 しつこく下着について興味を持ち、話題を戻す甲斐にクリスは嫌気がさしたようだ。


「……埋めたらパンツの芽が出て、花を付けて……パンツが生える……? そういうこと……?」

「そんな得体の知れないパンツ履いてる女がいるなら会わせてちょうだい! きゃっ!?」


 すぐ横に何かが落ちる音が聞こえた。

 二人が揃って落ちて来た何かを見ると、それは前の世界でいつかに教科書で見たような形の大きな鉄の塊が突き刺さっていた。

 滑らかなフォルムに、青一色のそれは確か戦闘機から落とされたという説明が頭の中に流れて行く。


「……二人とも! 避難して下さいいいいい! 威力・範囲共に不明ですがそれは……ばくだ……」




 腹の底から響くような音が響き、実戦場の周囲一帯が揺れた。




 フルラの声が何処まで聞こえていたのかは分からない。

 二人共話をしていたので纏めて包み込むように盾を作ったが、煙と何かが燃えている赤い炎が邪魔で二人の安否は見えなかった。

 遠くに離れていたフルラの元に、破片の一部が落ちていた。


 余りにそれは一瞬で、足元から崩れてしまったフルラの手が破片に触れた。

 ぷにゅ、とスライムの様な感触に驚き指でつついてみると、固そうに見えるが触るとゲル状だ。


「いやああああああああ!」


 煙が強い風により流れた先に、見えて来たのはフルラがショックを受けた際に盾が解除されてしまった二人だった。

 盾に纏わりついていた破片は一斉に二人に降りかかったらしく、クリスが発狂している。



「気持ち悪いいいいいい! 髪の毛に付いたのが取れないいいい! いやああっはあはははあはははあは」

「あーあ……全員座り込んじゃったし、負けかあ……。悔しいなあ……」


 甲斐は冷静に敗北を認め、下唇を噛んだ。

 シェアトが彼女たちの傍に来た時、甲斐の顔にはスライムが張り付いている状態だった。


「……お前はせめて顔一面に付いてるスライム気にした方が良いぞ……。息出来てんのかそれ……」

「うん、辛うじて。ほらクリス、お風呂入れば取れるって。……ちなみにさっきの何だったの?」

「あん? スライム爆弾だよ。女相手に普通の爆弾じゃ笑えねぇだろ。それに無害だしな! ま、お前らじゃ俺様には勝てねぇっつう事だ!」



「エルガー、僕のステルス解いてくれなーい?  只でさえ皆より影薄いんだから……このままじゃ誰にも認識してもらえないよー!」



 エルガがルーカスのステルスを鳥に乗ったまま解除する。

 何故か鳥は、勝ち誇っているシェアトの両肩を掴むと大空へと飛び立っていった。


 聞こえる絶叫の中、恐らく甲斐に対して酷い目に合わせた事を怒っているのだろう。

 一瞬でエルガの心境を理解した全員が、目の前で起きた鳥使いの起こした誘拐事件の事は口にしなかった。

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