第百八十三話 三対三の実戦練習
雪が溶け始め、どこか懐かしいような風の匂いがする。
日照時間も冬に比べて大分長くなってきたのを実感したのは、実戦練習中の今だった。
足場の悪い、冬場に雪かきをさせられた実戦場で今年初めて、三組の合同練習が行われていた。
あの最後の映像を見てから、指輪のサイズは変わらないものの、ロックが外れたのか、付け外しができるようになった。
せっかくなので付けたままにしておいたのは、あの全てを忘れぬようにという刻み込みでもある。
やはり全ての映像の内容をランフランクに言わなかったのは正解だった気がした。
最後の中身についても、ノイズが酷い中で誰かが聞き取れない何かを言っていたという事にしたのだが、ランフランクがその内容についてとても悩んでいるようで少し気の毒に思えた。
甲斐にとって映像について、最初は怒りがあったが今はもう一人の自分の安否が気にかかる。
ゼータ側だとしても、酷い傷を負ってまで何かを守ろうとした彼女をどうしても一概には責められなかった。
だからといって、シェアトに推薦枠を取りやめるように言える訳も無く、身動きの取れない、じりじりとした日々を送っている。
「ほら、カイ! どんどん突っ込んで! ガンガン怪我しても大丈夫よ! 私がいるんですから!」
「ふええ、クリスちゃんさっきの作戦聞いてたぁ~? ダメだよぅ、突っ込んだらシェアト君の攻撃は範囲が広いし火力が強すぎて危ないから~!」
「怪我しても治されてまた駆り出されるとか病みそう。誰かあたしにも人権を」
「な~にごちゃごちゃやってんだ! んなおチビの盾に籠ってるだけじゃあ、狙い撃ちだぜ!?」
前方からは三人が一体となり、前進しながらシェアトが横から攻撃をしかけてくる。
向こうの盾はエルガのもので、純度が高く、全く色が見えない。
ルーカスもシェアトと反対側から、素早く攻撃魔法を仕掛けて来るのがまた厄介だった。
シェアト程の威力は無いものの、繰り出される魔法はどこかしらに仕掛けがあり、フルラがそれを見破るのに苦戦していた。
「足元! 注意して! ……クリスちゃん! 下着見えてる!」
言った矢先に反応の遅れたクリスは地面から巻き起こった爆風を避けきれず、上に浮いた。
スカートが思い切りまくれ上がり、モザイクが必要なほど布の少ないショッキングピンクの下着がお披露目された。
「もうそれ太めの糸何本かあれば完成じゃん」
「やめてよ! これ、ブランドものなんだから! まったく、なんて卑劣な奴らなの!? フルラ! 武器召喚!」
「ええ~……。クリスちゃんちょっと落ち着いてよぅ……。あああう……分かったよ、そんなに睨まないでぇ……。こ、これは作戦放棄だよ~」
クリスの威圧感に負け、片手で小さ目の盾を出しつつ、もう片方の手で長い柄の先に鎌のような刃先の付いた槍を召還した。
甲斐は武器召喚の授業を受けていないので、どうやって出現させているのか興味津々に見ていたが今はそれどころではない。
受け取ったクリスが、手の平に電気を溜めて持ち上げると軽々と何度か振った。
「すっげえ、見たかよ今の!? あいつのパンツ、後ろどうなってんだあれ!? つーかそもそも履く意味あんのか!?」
「はいはい、ほらほら手を止めない! ……シェアトは典型的なお色気攻撃で死ぬタイプだと思うよ……」
「ふむ、クリス嬢が物騒な物を持ち出したね。彼女は鈍器とか暴力的な武器の方が似合うと思うんだが。あの武器に割り振られている魔力は多くは無いはずだから、すぐ壊れるさ。彼女の武器が壊れてから総攻撃だ」
シェアト達と違い、甲斐・フルラ・クリスの三人の中で攻撃できそうなのは甲斐一人だけかと思われたが、怒りに捕らわれたクリスが槍を持ったまま突撃して行った。
狙い撃ちをされてしまうといけないので、フルラが彼女自身の前方に防御魔法を急いでかけてやる。
「うひょ~、クリス怖あ~。 あれで三人の首刈り取る気なのかな?」
「だっだめだめだめ! ただの殺人事件でしょそれぇええ! なんでそんなに楽しそうな顔してるの!? 何か面白い事でもあった!?」