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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第6章 全ての始まり
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第百八十話 エルガの面談・嘘のつきかた

 校長室から出ると、そこは元いた甲斐の部屋ではなかった。

 もしかしたら出口はランダムなのかもしれない。

 

 静かな通路を慣れた足取りで、寮へ向かっていた時だった。

 急に誰かが走って来たと思った時にはもう、彼の腕に捕まっていた。



「だーれだ?」



 後ろから両腕を回して抱きしめ、上から顔を覗き込んでおいて誰だも何もないのだがエルガは楽しそうだ。


「……セクハラで訴訟沙汰になりたいの、エルガ」

「おや、お姫様はご機嫌斜めかな。僕は面談を済ませて来たんだけどカイと会えるなんて思わなくてね。やっぱり運命的な物を感じるよ!」

「……あれ? まだ終わってなかったんだ。……エルガは進路は教えないっていうポリシーがあるんだもんね。いいよ、聞かないから」


 抱きしめられながらそのまま歩き出すと、ようやく手を離してエルガは隣に並んだ。

 いつもと変わらずに微笑みを浮かべている彼が、一年後何になっているかなど想像もつかない。


「カイになら、僕の口から教えてもいいけど条件があるな」

「……この場で大声出す準備は出来てる、言ってみな?」

「酷いなあ、僕にもある程度の節度と理性はあるんだよ。シェアトのようなタイプと一緒にしないでくれたまえ」


 その言いぐさもどうかと思うが、エルガの言う条件がセクハラまがいの物で無いならば、聞く耳を持ってもよさそうだ。

 無言で先を促すとエルガの瞳は月の光を吸い込んだかのように、怪しく光った。




「一緒の道を歩むと、言ってくれるならば話すよ。カイ、僕は君が必要だ」




 思わぬ言葉に、甲斐は言葉が出て来なかった。

 エルガが進路を言うのが嫌でこの条件を出しているのではなく、まるで前から考えていた言葉をこの機会に使ったように思える。


「……が……」

「ん? なんだい? ……が……?」


「学年首席があたしに同じ進路とかそういう無茶ぶりをするの……? 受ける事すら危ういんじゃ……」

「ああ、問題無いさ。僕が口をきいておくから。君がいてくれたら、僕はまだ……正気でいられるような気がするんだ」


 何故かこの選択を間違えてはいけない気がした。

 だが、どちらが正しい道なのかが分からない。


 彼の瞳は口元のフランクさと全く釣り合っておらず、本気だろう。

 それが少し、怖い。

 共に行くと言って、彼の言葉の先を聞いてもいいのだろうか。


「……冗談だよ、全くなんて顔をするんだい。でも、僕がある程度人員確保をどうにか出来るのは本当だからもしも何か困ったら来るといいさ! ああ、僕はなんて頼りがいのある男なんだ! ちなみにさっきのはプロポーズではないよ! 僕はもっとムードを大切にする男さ!」

「……エルガ、家がヤクザか何かなの?」

「ヤクザ? マフィアみたいなものかい? 違うよ、そんなタフな家系に僕の様な繊細な子供が出来たらおかしいだろう!? そうだ。カイ、君は何をしていてここにいるのか聞いてもいいかな?」

「あー、あたしはちょっとランランに用があって。その帰りだよ。ねぇエルガ、嘘ついたことある?」


 ちょうどいい話題だと思った。

 きっと彼も今、嘘をついたはずだから。


「……嘘かい? どうかな。嘘は何故、誰のためにつくのかで盾か剣に分かれるものだ。そしてカイがもし僕に嘘をついたとしても、僕はそれすら記念日にして喜んでみせるよ!」

「……なんて奴だ。うーん、それって守るか傷つけるかってこと? そっかあ、盾ならセーフなのかな?」

「相手に分からなければセーフさ。ただ、綻びを出してはいけないよ。亀裂はあっという間に全てを壊してしまう。全てを覆い隠すのも更に大きな盾が必要なのだから。あまりにも盾を大きくし過ぎたせいで、持ち上がらない! なんて事にならないようにね」


 エルガの言葉に、少しだけ救われた。

 今まであんなに力になってくれていたランフランクに対して嘘をついてしまった罪悪感が、今になって押し寄せて来ていた。

 嘘をついてしまったという事実に変わりはないが、誰かを守る為に必要な嘘ならば自分の痛みはいくらでもくれてやろう。

 そして全てを知っているかのように話すエルガは、深くは聞いて来ないのも彼なりの優しさなのかもしれない。


「……エルガ、たまにはイケメンだね」

「いつもは直視できない程美しいと!? カイの瞳が使い物にならぬように気を付けなくては……。今後はトリートメントを三種に減らすよ……」

「いい、いい。使え、浴びる程に使……えっ何普段どんだけ使ってんの、逆に悪くなりそうだけどそれ……。サラサラ髪マイスターかよ……」






 もしかしたら、この嬉しそうに笑っている彼は彼のついている嘘なのかもしれない。

 だとしたら彼の持ち上げている盾は、一体どれだけの重さになってしまっているのだろう。

 それともいつも誰かの喉元に、大きな剣を人知れず向けているのだろうか。

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