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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第十七話 流れ星、聞いて

 クリスの明るい焦げ茶色の髪は寝起きとは思えないほど綺麗に巻かれており、柔らかそうな毛質をしている。

 腰に巻いていたジャケットを羽織りながら、シェアトとエルガと何言か交わすと皆に手を振って帰って行った。


「さて……で、あの後どうなったんだよ?」


 適当な場所にシェアトが座り、両隣にルーカスとエルガが座った。

 甲斐は柵が設置されている若干の段差に腰を下ろし、柵に寄りかかって二人と別れた後のことを話していく。

 編入することになったという話の流れに行き着く頃には大分気温も下がってきていた。


「じゃあ、やっぱり今のところはカイが元の世界に戻れる方法は分からないままなんだね…」

「マジかよ……。まあ、なんとかなんだろ! あれだ、旅行にでも来たと思ってこっちにいる間は楽しめばいいんじゃね?」

「そうだよ! 寂しくなんてさせないさ! 僕と愉快な仲間達が君を毎日笑顔にするよ!」

「エルガはあたしの事を本当に思ってくれるなら本当に静かにしてて」


 

 ようやく一部始終を話す事が出来た甲斐は少し疲れたようだ。



「やっぱりここにお世話になる他ないよねぇ。でも、気長に考えることにするよ。あ、ちなみにこの制服借りるときの話してなかったよね。あたしさ、あの寝巻きの下って上半身だけはなんも付けてなかったわけよ」

「え……カイ、一体なんの話を……?」

「だからさあ、ランランにこれに着替えてきなさいって制服をどこからともなく出してもらって更衣室まで出現したんだけど 、これはシャツ白だし流石にばれるよなと思いながらもジャケット着ちゃえばこっちのもんかと思ってさあ」

「お前もしかして今も……!?」

「……たんだけど! 更衣室の中は凄まじい引き出しの数でさ! 可愛い天使の女の子があたしを見るなりかなり上の方から引き出し持ってきてその中にいっぱい下着があってさ! サイズもぴったりだしほんと超助かったんだよね! いやあ、流石にランランにブラ下さいなんて言ったらなんかおかしいでしょ。困ってたから助かっちゃったよー!」



 がっくりと肩を落として星空を見上げたまま、シェアトは動かなくなった。



「お手伝い天使は本当に仕事が出来るいい子達だからね!」



 エルガは楽しそうに甲斐の話を聞いている。

 彼にとって、甲斐が話すならば内容はなんでも良さそうだ。 


「おいこらお前今、 校長のことなんつった……?」

「あ、そうだ。ねえ、あの下着とかってランランのコレクションとかなの……? ……違うよね?」

「カイの入った部屋は緊急用のクローゼットルームだね。お手伝い天使はどんな不測の事態にも応えられるんだよ。これは校長の意思とか魔法じゃなくて、彼ら自体の特性みたいなものだから。その代わり、彼らと契約するには土地に住まわせて退屈させないように仕事を与えるんだ」


 シェアトだけが目を見開いた。


「やっぱり! ほら! 聞いたか!? なんでお前ら校長への不敬について無頓着なんだよ!」

「いいじゃないか、カイにはユーモアのセンスもあるんだという事が分かったんだ! 神はたくさんの良い所をカイに与えたんだね!」

「ブラックユーモア過ぎるわ!」


 騒ぐ二人をよそに甲斐は柵にもたれかかりながら、空を見上げている。


「カイ、聞いているかもしれないけど明日から二日間はお休みなんだよ。カレンダーを出すスペルは後で教えるね。明日は校内を案内しようか?」

「ああ、なんかそうらしいね。明日……うん、お願いしようかなあ。スペルって要は魔法のことでしょ? あたし魔法使いじゃないから、たぶん無理だと思う……」


 首が疲れるのではないかと思うほど真上を見たまま、甲斐はどことなく気の無いような返事をする。


「いいや、カイは出来ると思うよ! 何故ならこの校内で皆と話せているし、この学校から弾き出されない時点で素質はあるのだよ! しばらくは魔力器が無いと難しいかもしれないけど! 僕が一日中レクチャーしてあげてもいいしね!」

「寒くなってきたな、そろそろ戻ろうぜ。明日にはカイの組も分かるだろうし」

「なんてこった! 女性は体を冷やしてはいけないからね! そうだ、僕が暖めることも出来るのだけれどもどうだろうか?」


 甲斐の手を取って最低な提案をするエルガから、さっと手を引いて甲斐は立ち上がる。



「質問の意味が分からない。それに甘んじる訳ないよね? さ、行こ行こ」



 帰り道は来た時と反対の並び順となった。

 エルガが先頭でシェアトと攻防しながら歩いている。

 最後尾のルーカスは甲斐が落ちて藻屑とならぬよう、気を張って後姿を見ていた。


 先程から随分と甲斐の歩くペースが落ちているのは、上を見上げているからだ。

 何回足元を見て歩くように言っても、ああだかううだかと言ってはすぐに顔は真上を向いている。

 行きよりも景色に目をやる余裕が出たということだろうか。

 また足取りが危うげなので声をかけようとしたときにようやく、甲斐の背中がしゃくりあげる様に時折微かだが震えているのに気が付いた。



「(そうか……、そういうヒトなのか)」



 気付いた事がばれては、甲斐が涙を落とすまいと上を向き続けた意味が無くなってしまう。

 知らないふりをしなくては。

 甲斐が不安を飲み込み続けた意味が無くなってしまうではないか。


 よたよた歩く甲斐の後ろをさっきと同じ調子で、何も知らない顔をして。

 必死に声を明るくしてたまに呼びかけながら、甲斐の足がどうか道を外れませんようにとルーカスは流れ星へと願った。

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