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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第6章 全ての始まり
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第百七十八話 甲斐の嘘

「こんばんはー。お邪魔します。指輪の件で来ました……」

「いらっしゃい。来る頃だと思っていたよ。そして私からも報告がある。君の進路についてだが」


 驚いた様子も無いランフランクはいつも甲斐の座る椅子を寄越した。

 何やら忙しそうに、机に向かい、書類へ印を押したり書き物をしている。

 手を止めることなく、甲斐の方に一瞬目線をやると微かに口の端を上げて笑った。


「希望があれば聞いてやれる程度に機関は君がここを離れる事に協力的だ。恐らく私の保護が厄介なのだろうが、勿論君がどこかの職に就いたとしても身の安全は守ろう」

「うおお! よ、良かった。ああ、早速というかなんというかで言い辛いけど言っちゃうね。希望の進路は…あのほら、なんか三文字の、シェアトと同じ特殊部隊に行きたいです」

「……そうか、『W.S.M.C』に進むか。一応理由も聞きたい。何故だ?」


 ここで初めてランフランクは手を止めた。

 じっと目を合わせられるが、甲斐もランフランクの瞳を見ている。


「あたしは、この世界の事を何も知らないから……。でも、ルーカスのように誰かを助けられるような技術は無い。それに月の人達みたいに頭の歯車は軽快に回った覚えも無い。歯車は錆びついてるから、戦術とか無理だと思う。でも、攻撃なら多分人並みに役立てると思うから」

「……それが理由か? 『W.S.M.C』以外にも攻撃に特化した職など腐るほどあるのを、知らない訳ではあるまい。私が問うているのは、何故この部隊を志望しているのかだ」


 この質問をされないと思っていたのではないが、静かな口調で問い直されると威圧感が強い。

 ぐっと笑顔を作り、明るい調子で甲斐は答える。


「いや~、せっかくなら誰かと一緒がいいなあなんて正直な所思ったんですよ。それで、同じ太陽組で気心どころかあたしの事情も知れてるシェアト君がいる部隊がいいなあっていう、そんな単純な理由です」

「……ほう、そうか。セラフィムは君の事情も知っているんだったな。しかし、そんな甘い理由で特殊部隊を志望するのか。どれだけ厳しい環境下に置かれ、現実の戦場がどれほど過酷なものなのか知らぬから言える言葉だろう。この話は今日は一旦ここで終わりにしよう、少しよく考えるといい。君の用件を聞こう」

「でも、そこにシェアトも推薦で行こうとしてるんでしょ? ランラン、これはどれだけ感動的な志望動機を言えるかのテストが必要なの?それなら考え直して作文にして来るよ。でも、違うならこれ以上あたしの動機は変わらないし、これでランランが止めるならあたしはもう、どこにも行かないよ」


 言ってしまった後、沈黙に押し負けそうになりながらも目を逸らさなかった。

 ランフランクが口を開いた時、怒りが含まれていない声色に心底ほっとしてしまった。



「……良かろう、生徒のチャンスを潰すのが教育者の目的ではない。だが、部隊の方にはある程度今の志望理由を色付けさせて貰う事になるが。春の終わりに面談で話した志望先によるが、幾つかの企業や機関から見学の機会が設けられる。その時にしっかりと現状を見て、判断するが良い。その後に変更する事も可能だ」

「……わがまま言ってすいません、でした! でも、見学あるんだ。心変わりしたら泣きつきに来ますから!」



 嘘をついた。

 もしかしたらランフランクの事なので、気が付いていたかもしれないが。






 これから先、あたしが貴方へ話す事にもまだまだ嘘が入り込む。

 こんな風にしか誰かを守る事が出来ないあたしの姿を、どうかまだ、見ないふりを続けていてほしい。

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