第百七十六話 魔法技術開発専門学校、通称「マギセン」
『初めまして、カイさん! 魔法技術開発専門学校、通称「マギセン」と呼ばれるこの学校で創立以来異例の速さでエキスパートまで上り詰めたと聞いております。並々ならぬ努力をされたのでしょうか?』
ぼんやりとカメラを見つめる映像の甲斐は、何も答えようとはしない。
どうやら撮影機材が気になっているようだ。
おもむろに手を伸ばすと何かのコードを引き抜いたらしく、暫く音声が消えてしまった。
『ああ、なんだろうと思いまして。へー、撮影のってこうなってるんだ。ああ、なんでしたっけ?好きな下着? フロントホックは嫌だなあ』
「げ、下品なっ……! 頭おかしい……。技術者ってこうなの? 引くわあ」
ツッコミ待ちのような発言をする甲斐は、どうやら余り自分と変わりが無いという事実に何故か気付いていないようだった。
そして、映像の中の甲斐が使っているとみられる部屋の中が映し出される。
ふわふわとした毛玉が浮いており、気になったのか手を伸ばしたスタッフの一人が一瞬で感電し、意識を失ったりと危険も多いようだ。
見た事の無い装置や、床などにもペンを走らせた跡がある。
それに気が付いたリポーターがいいネタを見つけたとばかりに話しかけた。
『カイさん、この床の書き殴りはやはりアイディアが浮かんだ瞬間に書き留めたものですか!?』
『あ~……それは、 開発許可が下りなかった時の恨み言とか罵詈雑言。映さない方が良いかも、かなりギリギリの奴だし名指しで書き連ねてるから。どうしても刻み込んでおきたくなったんだよね。くそっ、思い出したら腹立って来た。おいこら開発局! テメエらのうのうと暮らせてんのは少なくともあたしのおかげでもあるんだからなああああ』
真っ青な青空の下で澄んだ色の海の映像に変わり、「映像に乱れが起きております。少々お待ちください」と丸い文字のテロップが上がれた。
そして編集したのだろうか、インタビューの途中のような甲斐とリポーターが入り込んだ。
気のせいでなければ、リポーターはしきりに帰りたそうにしている。
『はいっ、もういつでも卒業出来る状態という事でしたが、各機関や企業からの開発依頼に答えているという事ですね!素晴らしい! カイさんの開発により、私達の生活が豊かになっているのは確かです! さあ、では最後にカイさんが今行っているお仕事を教えて下さい! 一言で! 一言で構いませんよ!』
『え~もう終わり? なんだよなんだよー。今やってる仕事かあ、結構守秘義務多くてさあ。そうだなあ……、依頼元は勿論言えないんだけど……あんまり好きじゃない仕事してるよ。平和主義だからさ~、あたしは。まあ、相手が良い奴だから別に良いんだけど』
『そうなんですか! では、その気の合う方のいらっしゃる所へ卒業後は行く予定ですか?』
『う~ん。あたしがまだここにいるのは開発と研究の設備が抜群だからって理由だし……。この仕事も長引きそうで、相手の所に何度も出入りしてるからいっそそれでもいいんだよね。向こうもでかいから、設備も上々みたいだし。あれ、この発言はセーフ? アウト?」
言い終わるや否や、さっと立ち上がってカメラに手を振るリポーターに合わせ、大きめの白衣から指先だけを出して同じように手を振る甲斐。
ここで映像は終わっていた。
「……ちょっと、待って? これ……この研究って……」
映像の中での平和主義なのに余り好ましくない開発の仕事をしているという発言。
そして依頼元が大きい会社や機関であること。
長期に渡る大規模な仕事内容。
焼き付けた映像が、音声が全て頭の中を巡った。
『ゼータが行っていたとされる大量殺戮兵器開発』
重厚な扉の向こうにいた人物。
険しい顔をしていたシェアト。
ゼータも部隊の人間も、どちらの命も助けると明言したルーカス。
ゼータの兵器開発に携わっていたのは、この世界の自分なのではないだろうか。