第百七十二話 フルラの進路
一年の時から変わらずにフルラの面談はシャンが請け負っていた。
シャン自体が親しみやすいので、フルラも話しやすいのだろう。
「全然緊張しないでね~。んと、フルラちゃんはずっと就職希望だもんね。ただ、希望は未定だった……と。面談はまだ受けられるから、無理して決めなくていいよ~。どこか希望は見つかった?」
一年ぶりの面談でシャンは内心とても驚いていた。
昨年まで変わらずにおどおどと、目線を余り合わせなかった彼女は、今や見違えるほどに成長していた。
しっかりとシャンを見据え、背筋を正して座っている彼女は元から礼儀正しくはあったが、それに良い方向に自信が付加されたようだ。
一度深呼吸をしてから、ゆっくりと芯のある声で話し出した彼女を、今後また馬鹿にするような者はきっとどこにもいないだろう。
「……私は、研究職に、就きたいですっ。あの、成績は普通ですが、根気は、あります!」
「あら、研究職なの~!? いえね、いいのよ。フルラちゃん、武器召還の成績がかなり良いから……てっきりガーディアン辺りを狙っているのかと思ったわ」
「私は、武器を出せても、その……それだけなんです。守ろうと思っても、相手を傷つけられなくて。勇気がやっぱり、足りないんです。でも、それじゃあ……きっと、誰も守れないから」
彼女が語るその言葉には、何か強い思いを感じさせた。
あの臆病な少女が、誰かを守ろうとした事がある。
その事実が、シャンの胸を熱くさせた。
「……そう、そうなの! フルラちゃんがしたい研究はぼんやりでも決まっているかしら? それが分かれば、いい研究所を探しておくわ! この学校の名前があれば、フルラちゃんの成績なら推薦も狙えるかもしれないし!」
「ほんとですかぁ!? あの……、高価な魔力器以外にも、魔法を使えるようになる方法を探したいんです…。限られた人だけが使えるんじゃなくて。手に入らなくて困る人が少しでも、減ったらいいな、って」
きっと、彼女を変えたのは周りにいる友人の力だろう。
下ばかり向いていた彼女の顔を覗き込んでくれた人物が、いたのだろう。
そしてその気持ちは、彼女の強さへと変わっていったのか。
「な~るほどね! うん、オッケー! そしたら、魔力研究の方面で探しておくね! 恐らく着手しているとこもあるだろうから!」
「本当ですかぁあ! ありっ、ありがとうございますうううぅ…」
「ただ~……成績は落とさないように! 研究職は通年の成績を見られるからね! 前の試験では順位が上がってたし、最後の試験ではがつんともっともぉ~~っと上げちゃってちょ~だい!」
「ふええぇ……、頑張りますぅ……」
二つに結われている髪の毛まで、彼女の気持ちに合わせてうな垂れたように見えて、シャンは堪え切れずに吹き出してしまった。
不思議そうにこちらを見ているフルラの顔は、もう赤くなる事は無さそうだ。