第百七十一話 エルガの進路
「あれ、フルラは? 宇宙の藻屑となった?」
「時々カイの言っている意味が分からなくて混乱するわ。これ、私の頭が悪いせいじゃないわよね?彼女なら今ちょうど面談入ってるみたいよ。私はまだだから、気が重いわ」
「あ、そうなんだ。クリスは進路どうするの? 美人ナースとして名を上げる?」
美人、という言葉が嬉しかったのかクリスはにこにこと笑い、声が高くなった。
「それは簡単そうで燃えないわね。私、生き物が好きなの。だから、ここで得た治癒の技術も使えるし進学して生き物のお医者さんになれるように勉強する事にしたわ。 ちょっと何笑ってるのよシェアト、お腹開くわよ?」
ぎらりと手に持ったナイフを光らせたクリスに、シェアトはたじろぐ。
甲斐のいない間に面談を終えた面々は、それぞれの結果をもう話したらしい。
クリスの生き物の医者という進路は、納得出来た。
しっかりとしている彼女は目標に向かって頑張れる力もあるだろうし、物怖じしない強さもあるはずだ。
「カイ、僕は前に話した『光無き神の子』に単願で志望を出したよ。これで逃げ場も無いし、思う存分頑張れそうかな。カイとの競争も、勝つ気でいるからね」
一瞬、ルーカスを見た時に映像がフラッシュバックした。
日焼けした青年のルーカスが、可愛らしく笑う彼に被って見える。
映像のせいで上手い返事が出て来ず、目を背けてぼそぼそと低い声で呟いた。
「……おう、しっかり頑張れよ……」
「頑固親父かテメエ。で、お前は結局何にしたんだ? いい加減教えろよな」
まだ話していなかったらしく、話の的がエルガに浮いた。
まるで意外だとでもいうように両眉を一瞬上にして、野菜スティックを一つ手に取った。
「なんだい、そんなに注目されると高ぶってしまうよ」
「ききききもっ! ふざけんな! 鎮めろ!」
「カイ! 何を言っているのよ!? でも、二年連続総合首席のミカイル君の進路は私も気になるわ。いいじゃない、教えてくれたって」
「何ってアレだろ。逆に聞くけど他に男の何が高ぶるんだよ」
「シェアト! フルラがいないからってそっち方面で調子に乗らないで!」
やかましい中で、エルガは顔のラインにある髪の毛を指に巻きながら綺麗な声で話し出した。
「別に隠している訳じゃないさ。ただ、一つ答えてしまうと色々と話さなくてはならなくなるからね。僕が長く語るのはカイへの愛だけだと決めているんだよ」
「だーっ、結局言わねぇって事じゃねぇか! おい、お前少しは女でも出してなんとか口を割らせろよ!」
「あたしのこの成長途中の胸をどうしろって? エルガ、せめてなんかヒントとかくれない?待って。簡潔に、余計な言葉を挟まずに簡潔に答えて」
「カイのおねだりなら断れないな。ヒントか、ふむ。いいだろう! 僕はヒトではなくなる。これが全てさ」
ルーカスの顔だけが、少し曇った。
以前に彼の部屋を訪ねた時に、垣間見えた闇が一瞬また見えた気がしたのだ。
「全っ然分からないわ。貴方の普段のキャラが濃すぎるのよ、美しすぎて天使になる、とかそんなふざけた想像しか出来ない……」
「思った以上に重症だなお前は……。生き物診る前に自分が診て貰った方がいいんじゃねぇのか……」
「……ルーカス、さては知ってるな?おーしーえーてーよー」
「えっ? いや、僕も知らないんだ。本当だよ。だから今、考えてた所なんだ」
変に勘の良いカイに思考を読まれた気がして、冷静を装う。
すると話題の張本人であるエルガが野菜スティックを食べ終えると、立ち上がって甲斐にウィンクをした。
「はっはっは。精々頑張りたまえ! 卒業の日に配られるパンフレットには、各々の進学先や就職先が記載されるらしいからその時に答え合わせをしてみるといいさ!」
「ヒントがヒントじゃねぇんだよ……! 絶対卒業までに当ててやるからな!」
歩き出したエルガは手を振って、行ってしまう。
彼の今の表情を誰も見る事は無かった。