第百六十七話 途切れる音声・映像
始まった映像は、この映像を撮っている人物が走っているのだろうか上下に目線が動いている。
今回はどうやらテレビを映したものではないようだ。
建物内のようだが、走る道に人が倒れているのが映し出されている。
白衣を着ている者や、武装している者、スーツ姿の者もいる。
一体ここで何が起きているのだろう。
彼ら全てが負傷しているのか、死んでいるのか全く動かず、また撮影者も足を止めずにその横を走り抜けて行く。
音が入っては途切れていく。
轟音や、爆発音も聞こえる。
前方から複数の足音が聞こえた瞬間に、壊れたドアの中に飛び込んだ。
爆風が起き、映像は光と煙を映し出している。
床に伏せている状態で這っているのか、目線は低いまま移動して行く。
煙が消え、入り口が遠ざかっていく中で通路を数人の人影が通り過ぎて行った。
その中の一名の足が止まり、壊れたドアへ近付いた。
移動していたカメラの動きが止まり、中へ入って来ようとしている相手の様子を伺っているようだ。
映っている足は、黒いブーツを履いており恐らく男性の物だろう。
そして数秒部屋の中を見た後、仲間の元へと向かって行った。
緊張が解けたのか大きく息を吐き出すと、立ち上がると壊れたドアを抜け、再び走り出した。
ここまで来ても撮影者の人物像が一切分からない。
もしかしたらこの指輪を贈った人物かもしれないが、どうやら危険な場所にいるようだ。
以前の映像の続きなのかも怪しいが、何かヒントがあるかもしれないと瞬きもせずに映像に見入る。
そして突き当りの壁に手を伸ばし、そのまま壁を伝って床に手を置いた。
手には固そうな手袋を着用しており、性別は未だ不明だ。
すると触れている部分に見た事のある魔方陣が出現し、その中に入り込んだようだ。
移動中の光景は映像でもスピード感がありすぎて、目が痛くなる。
そして着いたのは、先程と違い、とても落ち着いたエリアだった。
至る所に立派な植物が飾られ、センスの良い配色で彩られている。
一際大きなドアの前に立つと手袋を外し、どこかに触れたようだ。
カメラは酷く汚れた手袋を映している。
そしてドアを開ける事無く、そのまま進んで行く。
ここで映像は急に真っ黒な画面になってしまい、壁に向けた指輪の位置を変えてみても直らなかった。
しかし、音声が入り込んだ。
『……た、……か? ここから……げ……』
どこからか地響きのような音が響いており、声が途切れてしまっている。
『……喚くな、騒がしい。何故来た? 貴様、誰の許可を……こに……込んでいる』
『……何故っ、何故こん……にっ! ……ままでは……!』
一人は撮影者、もう一人は先程のドアの向こうにいた人物なのだろう。
撮影者の声は女性にしては低いが、しかし少年的にも聞こえる。
相手は不愉快そうな声を出してはいるが、顔見知りの様だ。
急に、何かが転がるような音が響いた。
『げっほ……がっ……なに、を……』
『無礼を許す気は、無い。私が何をどう……が……。……が……を突っ込むな。言った筈だ、理解してもしなくても……気は……と……』
『……ん…な……あっ……ああああ……ああっああああああ』
絶叫の後、静寂が続いた。
人の叫び声を聞くことなど、今まで無かった。
何が起きているのか分からない。
相手が撮影者に何かしたのだろうか。
急に映像が戻った。
色がセピアになってしまっている。
床に落ちたままの状態で映し出したのは、暗い色の液体が広がって行く様子だった。
それが何か、頭が先に理解した。
響き渡る爆発音は遠く、近付いて来るのは革靴の響く音だった。
スーツ姿の男性は片膝を立てて撮影者の傍に座り、手をかざして魔方陣を発動させている。
『……い。……し、違う……があったなら……その時はきっと……るだろう』
転送される直前、何かが聞こえた気がしたがそれは本当に一瞬で、何も分からなくなってしまった。