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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第6章 全ての始まり
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第百六十五話 『光なき神の子』

 静かな部屋で一人でいたが、今の甲斐には自習をする気は全く起きなかった。


 いつかにストゥーに貰った教材で授業に使わない物はベッドの下に放り投げてある。

 腕を伸ばして下に散乱している冊子を掴むと引きずり出した。

 いつもお手伝い天使たちが部屋の掃除をしてくれているので、埃は一つも出て来なかった。


 掴んだのは『全世界魔法教会認定・試験科目一覧』だった。

 しかしこれでは職業の詳しい情報が分からない。


 他に何か無いかと漁ってみると、少し厚い他とは規格の違う本が落ちている。

 再び引き出すと『進路選択補助資料・職業一覧』とある。



「おお! 役立ちそう。えーっと……うわ、なんだっけシェアトに推薦枠出すというアホな就職先は…」


 ページをめくって行くと、見開きで一つずつ職業が紹介されており、功績や仕事内容、そして働いている人々の写真が載っていた。

 シェアトの言っていた特殊部隊の名称は覚えきれていない。


 探すのに苦労していた時だった。

 ふと飛ばしたページが気になり、戻ってみると『光無き神の子』と題されている。


「ん……? これ、ルーカスの夢の医療団じゃないっけ」









―――『光無き神の子』


 その高い医療技術を持った彼らは、戦線で戦う者達に付いて行く。


 どんな過酷な戦場だろうとも、そして戦況が厳しくとも。


 傷んだ者がいれば攻撃の飛び交う中、どこからともなく駆けつけるその姿は本当の天使のよう見える。


 この医療団の名称は創設者達の活躍により、名付けられた。


 本当の名称は今は使われる事は無いが『天駆ける医師団』という、少しでも多くの負傷者の命を助けたいと、当時は手が薄かった医療魔法師に任せておけないと同志を募って結成されたものだった。

 

 すぐ横を強大な攻撃魔法が通り過ぎて行く中で、彼らの主導者であり、初代団長のラッセル・ジェイダはこう言ったという。




「見える故に恐れが生まれるならば目を潰せ」

「必要なのは助けを求める声を聞く耳と、伸ばした手を握り返し、傷を癒すこの両手だけだ」

「目的を見失う瞳など閉じてしまえ」





  その言葉通り、仲間達は奮起し、怯む事など一度も無いまま、戦場で動けなくなった者達の治療にあたった。


 ここで着目すべき点はもう一つあり、治癒能力に長けている者は攻撃には明るくないという事だ。


 気休め程度の盾を張り、戦場を駆ける彼らは二度と戻って来ない事もあった。


 まるでこの惨状が、攻撃が見えていないかのように進み続ける彼らはいつしか『光無き神の子』と言われるようになった。

 



 そして現代ではこの誇り高き医師団の名を知らぬ者はいなくなった。


 危険の多い特殊部隊に付いて行くので、技術を駆使して身を守る魔法防衛機器も与えられてはいるが日々兵器も進化している為、現状も危険と隣り合わせである。


 彼らのおかげで、命を救われた人間がいるのは事実だ。

 その数は犠牲になった神の子達の何百倍にも及ぶ。

 

 志願者は年々増えているが、人員を増やすことに重きを置いていないこの団体に入団出来る者は極僅かである。











「……ルーカス、これ知った上で……? あのおっとり貧弱ルーカスが……?」


 動く写真には数人の男性が目立たないようになのか、黒いシャツと黒いパンツ姿だった。

 そして頭を覆っている布の帽子から足元までの長さまで大きなマントが一枚の布で出来ており、様々な色に変化している。

 恐らく高性能ステルスがかけられているのだろう。

 思ったよりも映っている男性達は若いが、顔にはどこか今の自分とは違う、決意ある強き瞳がこちらを見ていた。


 友人の知らぬ決意は、優しい彼から想像もつかないほど熱いものだったのかもしれない。


 危険を省みずに人を助けたいという志の高い友人の選ぶ進路を、心から応援してあげられない自分が嫌になる。

 どうしても甲斐にとっては、危険な中に身を置こうとする彼らの方が、顔も知らぬ他人の命よりも大切に思えてしまうのだ。



 今日は大丈夫でも、明日は?

 その次の戦場では?


 

 そんな事を思うのは甲斐が違う世界から来たからだと、彼らは笑うだろうか。

 それに対して、自分は上手く切り返せるだろうか。


 まだ決まってもいない自分以外の進路に、甲斐の心は乱されていた。

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