第百六十二話 隠し事見つけた
面談の日程は全部で二日間、時間も細かく組まれているそうだ。
同じ学校で朝食を同じようにとっているはずなのに、自分とシェアト以外が何故あんなに連絡事項をよく聞いているのか不思議でならない。
どおりで今日は皆、いつも若干空けているボタンを全て締め、正しい制服の着方をしているわけだ。
三年生は朝食後、このまま食堂で待機らしい。
普段と同じ授業だと思い、鞄の中身を入れてきてしまったのは失敗だった。
次々に生徒の名を先生が呼んでいく。
フルラとクリスも呼ばれていった。
そういえば、あの二人は卒業後はどうするのだろう。
ここを出た後、進学という選択肢はあるのだろうか。
もっとも、クリスは進学できるのか危うい成績のようだが。
「その指輪、昨日とサイズ違くねぇか? どうしたんだよ」
「……なんか、朝起きたらこうなってた! いやあ、びっくりだよね。世の中にはまだまだ摩訶不思議な事例が確認されているだろうし、大した事じゃないよ、うん」
シェアトはこれで丸め込めたようだ。
しかし、エルガは目を細めて甲斐の指にしがみついている指輪を見つめている。
「昨日とは、それにかけられている魔法の種類が違うようだ。念入りに何重にも魔法が結びついてるね。恐らく発動用件をカイが満たしたんじゃないかな?」
何をどう見ればそんなことまで分かるのか、甲斐は聞いても分からないと判断して口をつぐんだ。
「……発動用件? カイ、ちょっと手を貸して。四文字が解けたの?」
「テ? あれぇ、テってなんだっけ……? あ、これの事?ルーカス、これはスプーンだよ? ルーカスのとこにもあるじゃ……いだだだだ引っ張りすぎもげる! 手でした! これが手です! 間違いないです!」
やはり自分は嘘をつく才能が無いのだと思った。
四文字を解く事が出来たなら、何故隠そうとしたのかとこの三人は思うだろう。
いや、一名察しの悪い者がいるのだが。
どう言い逃れをするべきか、それとも正直に解けたのだと言ってしまった方が良いのか考える間も無くルーカスに強引に手を取られてしまった。
恐らく暴れるのを回避する為か、腕を捻じるように持っていかれてしまい抵抗できない。
「よろしいかな、カイ。君は私と行うぞ」
ランフランクの出現に、ルーカスの手が離れた。
好機とばかりに立ち上がり、皆に手を振っているとどこからともなく校長室へ続く扉が現れる。
良いタイミングで難を逃れたと思っているのは甲斐一人だけで、三人は完全にこの甲斐の行動を怪しんでいた。
「……なんだ、あいつ。指見せるのなんて、んな照れるような事でもねぇだろ。ったく、変なところで純情ぶりやがって」
「あっ、うん。世界が君で溢れたらきっと優しい世界になるだろうね」
「いつも先回りして助ける事だけが為になるわけじゃないさ。たまには見守る事も僕らの役目じゃないか。はっ! 僕は今凄く素敵な事を言ったんじゃないか!? 書き留めなくても大丈夫かい!?」
「……そうだね、近くにいれば変化にも気付けるだろうし。最近ちょっと過保護すぎたかな?」
そうルーカスが言った時には、置いてけぼりとなっていたシェアトがエルガにポテトを投げつけており、それを全て高笑いしながらかわすエルガがいた。
そしてエルガの後ろに座っていたビスタニアが、全てのポテト攻撃を受けていた。
無言で立ち上がったビスタ二アが真っ直ぐシェアトの元へ歩み寄るのが見えたが、運良くルーカスが面談に呼ばれてしまい、結末は分からないままだった。