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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第1章 君に出会って
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第十四話 ごはんは幸せ

 普段であればランフランクが席に着けば先程の小さな天使たちが歌い出し、食事が湧き出るのだが、教員達も今日はまだ立ったままであった。

 ランフランクの隣にいる甲斐が教員達の席の前まで来ると、食堂がざわついてきた。


「皆、授業の後で空腹だろうが少々私に時間が欲しい。仲間を紹介したいのだ。よろしいかな?」


 広い食堂内に響き渡る声量で、再び食堂は静けさを取り戻した。

 ランフランクが咳払いをすると、衣擦れの音すら消えていった。


「彼女は、たった今から我がフェダイン魔法訓練専門機関学校へと編入となる。学年は二年である。何度も言うので皆の耳が食あたり気味かもしれないが、あえてまた言わせて頂く。どの刺繍となっても仲間であることに変わりはない」


 全体を、いや、一人一人と見つめるように顔を動かすと一度目を閉じて甲斐の背を少し押して前へ出すと、ランフランクは一歩下がった。


 よく見ると甲斐のスカートの丈は一般的な女子生徒よりも短いようだ。

 ネクタイの結び目は大きくして、第一ボタンを外してある。

 胸にかかっていた髪の毛を両手で首元から後ろへ流し、大きな目を何度かきょろきょろと動かすとまた前を見たまま話しだした。


「初めまして、カイ・トウドウです。お腹が空いています。空腹です、すっごく。それはもう餓死する位に。そんな中この食堂内はとてもいい匂いがしてます、 憎たらしい。ああ、ぶっちゃけかなり腹立たしい。何故ならあたしは朝から何も食べていないからです、悔しい。……あっ。よろしくお願いします」


 恨み辛みの存分に入った自己紹介を終えると、またランフランクの隣へと戻った。

 自己紹介が終わると、生徒達はどよめいた。

 それはいい意味かは分からないが、ランフランクが拍手をすると教員、そして生徒も倣って拍手をしていた。



「さあ、では夕飯だ」



 ランフランクが杖で床を打つとそれを合図として天使たちが一斉に、明るい曲を歌い、どんどん料理や飲み物が出現していく。


「さて、カイ。君はここで食べてもいいが、見知った顔がいるのであればそちらでも構わない。これを返すのだろう?」


 ランフランクの手にはルーカスから借りたジャケットがあった。

 用意されていた椅子に座ってすぐに食べられるマフィンや、取り分けのしやすいかなり大きいソーセージや骨付きチキンを引き寄せて頬張っていた甲斐は目を白黒させている。


「ふぉうら、ふぁふぇふぁなひゃ。ふぁりふぁふぉうふぁんふぁん!」


 思い出したように慌てて立ち上がり、天使に貰った水で流し込むとジャケットを受け取り、無数のテーブルを食い入るように見つめる。


「ルーカスならばあそこだ、シェアト・セラフィムとエルガ・ミカイルと三人で座っている。見えるかな? 食事の後は自由時間だ、部屋にはバスルームもある。今日寝る時は好きな棟の女子の部屋に行きなさい」

「ほんとだ! ありがとうございます、 ランラン!」


 静かに食事をしていた教員達の手が止まった。

 何か、聞き慣れぬ単語が聞こえてしまったようだ。

 そんな事は意に介さず、甲斐は教員達の後ろを通って三人のテーブルへ向かう。



「あ、カイがこっちに気付いたみたい」

「ほんとか! お、こっちに来てるな! こっちだよこっち!」



 シェアトが立ち上がって手を振ると、カイは速度を上げて向かって来る。

 その様子を見た近くのテーブルからは冷やかすような野次が飛ぶ。


「ああ、本当に会えるなんてね! 驚きだよ! しかも編入なんて! 是非月組になるといい!」

「ああ!? あいつが月とかお前何言ってんだよ! さっきの自己紹介聞いてなかったのか?」

「あの凛とした感じ、そして不思議ちゃんなんだろう? ミステリアスな人は月にぴったりさ! 僕のようにね!」


 シェアトがエルガの戯言に無視を決め込んでいると、ルーカスが甲斐へ駆け寄って行った。


「カイ! 良かった!」

「やっほー、ルーカス! これ、ありがとう。おかげで寒くなかった! ……気がする」

「おう、編入生! とりあえず座れよ。ほら、飯でも食え!」

「ねえ、そちらの美人の金髪さんは? シェアトの彼女にしては美人過ぎるけど……あっ、もしかして目が見えないとかなの? じゃないとシェアトを選ばないよね?」


 余裕の表情で甲斐を迎え入れたシェアトの頬が二、三度痙攣したのをルーカスは見逃さなかった。

 エルガはすかさず立ち上がり、甲斐の前に立つと嬉しそうに溜息をついた。


「はあ……、僕の美しさは性別なんて超越しているからね。混乱させて申し訳ない。初めまして、キュートな不思議ガール。エルガ・ミカイルだよ」

「あれ、どうしたのこの人。心の病気? はい、よろしくね」

 

 甲斐の質問に答えず、シェアトが甲斐に話しかけようと甲斐に手を伸ばす。

 その顔は険しい。


「……お前、編入することになったのか? 校長でもだめだったのか?」


 席に座ったまま甲斐の腕を掴むとぐっと引き寄せて、小声で囁く。


「わわっ、あー……あれはえーっと色々ありましてというかなんと言いますか……」



 説明が面倒だが、シェアトにも世話になったので説明をする義務がある。

 とりあえずランフランクから言われた『戻るには自分の力ではないと難しい』という事を伝えなければと、自分の胸を親指を立てて叩いてみる。


「……わ、わかんねーよ……! なんだよそのトンッって! それなんか使い方間違ってんぞ!」

「とりあえず、食べてから詳しく聞こうか。カイもお腹空いてるでしょ。あ……カイ、エルガにも話してあるけど信用できるから安心してね」

「さあさあ、どんどん食べて! どんどん信用してくれたまえ!」


 三人の言葉などもう耳に入っていないように、小さな体の何処にそんなに食物が入っていくのかと思うほどの量と速度で甲斐は食事を堪能し始めていた。

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