第百四十八話 罪人を捕らえよ
「お昼、待ってたのに! おかげで私とルーカス二人で静かなランチだったわよ! 酷いわ!」
「クリスがそれはもう正確に二分きっかりごとに『みんな遅いわね』って言いながら入り口を見てたよ。僕一人じゃ彼女を楽しませてあげられなかったみたいで残念だよ。何かあったの?」
夕食時、憤慨しているクリスと肩をすくめて彼女を見るルーカスに四人は平謝りだった。
シェアトがクリスとフルラの前なので、只の事故だと強調して事情を説明していた時だった。
隣り合う甲斐とシェアトの肩に、後ろから手が置かれた。
振り返ると、ギアの姿がある。
いつも通りどこを見ているのか分からない瞳で、口元は笑っていた。
「君達に聞きたい事がありましてね。まぁ個人的にはあまり興味も無いんですが。聞いた所できっと私にとって何か役立つような話でもなさそうですし、正直どうだっていいのですが。教職に就いている以上、避けられないといいますか。私じゃなくてもいいような気もするのですが、宜しいですか」
「俺とカイに? なんだよ、ここじゃだめなのか? 腹減ってんだよマジで」
「それは昼間に食事よりも廊下を破壊する事を優先したからではないですか?お手伝い天使たちが綺麗に修復してくれましたよ。そのおかげで私も昼食を食べ損ねておりまして、今に至ってはこうして夕食を抜いて貴方達に声を掛けております。これ以上私の体が細くなっては健康に支障をきたしそうです、ああひもじい。人は食べる為に働いていると思っていたのですが、こうなるともう分かりませんねえ」
完全にばれている。
いわゆるチェックメイトというやつだろう。
しかしシェアトは納得がいかない。
何故なら実行犯は甲斐である。
更に詳しく言うと自分は巻き添えを食っただけであり、それに便乗して更に被害を拡大させたのは今素知らぬ顔をしてパスタを綺麗にフォークに巻いているエルガである。
「……ありゃ、これは……まずい感じ?」
「トウドウさん、何をもってまずいと言っているのか判断しかねますが、怒られるという心配をしているのであればそれは大丈夫ですよ。誰も怒りません。ただ、罰は受けて頂きます。勿論ですよね、この学校の校風がある程度生徒の自由を許しているのも生徒達を信頼しているからです。信頼、不思議な言葉ですね。さあ、二人とも立って下さい」
「……マジかよ……! ちょ、やったのはこいつとエルガだって! 俺は……」
「責任転嫁に擦り付けですか。セラフィム君は往生際が悪いですね。とにかく立って下さい。私もいい加減栄養を補給しないとまずいです。 今だって眩暈がしていますし」
「逆にたった二食抜いただけで!? 燃費悪すぎないですか!?」
かなり細身に見えるがギアの肉体的な力を甘く見てはいけない。
肩に置かれた手の力が段々と強くなっているせいで骨が軋んで悲鳴をあげているのだ。
これ以上言っても無駄だとシェアトも悟ったようで大人しく立ち上がり、甲斐は最後にパンを一つ口に押し込むとギアに連行されて行った。
フルラは祈るように手を組んで自分にいつ飛び火するかと怯え、クリスはまた少なくなったメンバーを見てがっかりしている。
ルーカスは爽やかに手を振って二人を見送り、エルガはシェアトがまた甲斐と二人きりになったとぼやいていた。
そして隣のテーブルではビスタニアとクロス、そしてウィンダムがその流れを見ていた。
「あれ! もしかしてあのまま処刑されるんですかね? いや、されて欲しいな!」
「ははは、クロスは過激だなあ。うちの学校を一体何だと思っているんだい?」
「か、仮にも実の兄だろう。相手があいつでは分からなくもないが、そんなに仲が悪いのか」
「あっ、いえ! 仲が悪いとかではないんです! ただちょっと兄の存在が神の起こしたエラーというか、バグなだけなんで!」
最早、兄弟の仲が悪いという次元の話ではなさそうだ。
しかし一体何をしでかしたらここまで嫌われる事が出来るのだろう。
連れて行かれた甲斐とシェアトは、どうやら昼間に廊下に穴を空けた犯人らしい。
何をどうしたらそんな事をする結果に至るのか。
全く理解は出来ないし、きっと理由を聞いても意味が分からないだろう。
だがこの問題行動は監視役として放ってもおけない。
食事が終わったら、見つけ出して聞いてみなくてはならないようだ。