第百三十八話 悲しい話を聞いておくれ
甲斐がまだ食事中だったランフランクに駆け寄ると、今の流れを全て知っているかのように何も言う事無く、食事を切り上げてくれ、校長室へと案内される事になった。
その間に自分の頭の中に次々と湧き上がって来る疑問を整理していく。
自分の口が滑って異世界から来たという事に気が付かれたのかもしれない。
しかし、それが一体いつの事なのか分からない。
もしかしたらシェアト達が、と考えたが彼らがいくらあんな感じだからといってビスタニアに自分の事を何か言うとは考えにくかった。
ドアを先に進むランフランクの後ろに続きながら、思い当たる原因はあと一つになった。
朝にビスタニアが校長に連れられてどこかへ行った。
あの時にもしかしたら、何か自分に関する話が合ったのかもしれない。
しかし何故そんな事を話したのだろう。
ランフランクが説明したのならば、彼があんな表情を自分に向けるような話し方をするとは到底思えなかった。
椅子を用意して貰ったが、座るのも惜しんでランフランクに近寄る。
「ランラン……ナバロが、もしかしての段階なんだけど、本当確証とかじゃないんだけど! 気付いちゃ……ったような気がしないでもないような……」
「そうか。まずは座りなさい、聞きたい事や話し合いたい事がある時は相手と同じ高さでじっくりと話すものだ」
渋々といった顔で椅子に座り、前のめりになってランフランクの返事を待っている。
しかし中々その声は返って来ない。
何かを考えているのかもしれないが、今の甲斐にはその思考すらも全て知りたくて仕方がなかった。
「さて、君の言うナバロとはビスタニア・ナヴァロの事かな。誰の事かと思ったが、なるほど。あだ名か?」
「えっ、これだけ待たせといて返事がそれ!? うおおあたしの中の怒りよ鎮まれえええ」
「冗談だ。老人から茶目っ気を取っては只の堅物になってしまう。……彼に事情がばれてしまったかもしれない、それを私に報告しに来た。その正直さは好感が持てるな」
「今日も誰より元気で素直な可愛い貴方の甲斐ちゃんです」
報告をしなかったとしても、この校長の耳には入って来るだろう。
そうなってから、実はと打ち明ける事も出来たが不誠実な事をして信頼を裏切るのは、嫌だった。
「不安に思い報告も兼ねて来てくれたのだろうが、それは君のせいではない。ナヴァロの父が防衛長なのは以前日本で報道を見ていたから知っているな?」
「知ってるけど……お父さん関連? あ、そっか。異世界から来たあたしをバリバリ警戒してくれてるんだっけ……。くそっ、まさか自分が彼女の親に嫌われている気分を味わう事になるとは思わなかった……!」
「なんだ、二人はそういう関係なのか? 玉の輿、という奴だな」
「いや、 それは全然無いしこの先ももう一人のあたしがここに登場する位あり得ない。玉なんてのこさなくていい。でもこの不安感はきっとその感情に似ている気がする……」
訳の分からない事を言っている甲斐に、直接内容をビスタニアから聞いたわけではないがと前置きしてランフランクは自分なりに二人が話したであろう話の予想を聞かせた。
それは、甲斐にはとても悲しい話に思えた。