第百三十五話 トモダチができました
「あ、あれはありなのかな……? 凄い堂々としてるけど……」
「さあな……あいつ、生き物嫌いだったはずなんだが……」
朝の食堂は普段と違うざわめきが起きていた。
それもこれも、クロスが後ろに連れて来たのは小型犬程のサイズに縮められた、誰がどう見ても灰色のドラゴンらしき生き物だったのだ。
前日の夜、甲斐がクロスを追い掛けて飛び出して行ったのは知っていた。
彼女はその後、真夜中に寒い寒いと言いながら皆の集まっているロビーに来た。
だが誰とも話さず、素通りして部屋に戻ってしまっていたのだ。
そう、甲斐とクロスしか知らないあの後の展開だ。
二人は不細工なドラゴンに乗って学校へ戻ったのはいいが、森に戻ろうとせずにクロスの後ろにぴったりと付いて来てしまった。
仕方が無いので甲斐が校長室への鍵を使い、この龍をどうすべきか、その方法を二人で聞きに行くという事態に陥っていたのだ。
結局、校長は少し笑いを堪えつつ、言った言葉は『サイズを小さくするならば共に生活しても良い』だった。
こうしてサイズを縮小したドラゴンは特に困った様子も無く、クロスに同伴する許可を正式に取得したのだ。
そして甲斐は、クロスが一言も森へ帰そうとしなかったのに気が付いていた。
苛められているのを目の当たりにしたからか、それともこの不細工なドラゴンを気に入ったからかは分からないが彼なりの考えもあるのだろう。
そして今朝、隠そうともせずにドラゴンを連れて来たクロスを見て甲斐は満足そうな顔をしているという訳である。
「……カイちゃん、今日は挨拶に行かないの?」
「ようやく飽きたのかい!? 男として、女性を飽きさせるような事はあってはいけないね! さあ、彼に注いだ無駄な時間を僕に注ぎ直しておくれ!」
「まさか! 挨拶は第一歩だったけど、もうそれ以上クリアしたから次のステージなのだよ! ふふふん!」
落雷に当たったかのようにはっとして、フォークを持ったまま青い顔で立ち上がったエルガは何か多大な勘違いをしているようだ。
両脇のシェアトとルーカスに座らされ、頭を抱えているが甲斐は無視して食事をしている。
「あら……校長が用があるみたいよ?」
「昨日会ったのに? なんだろう、照れるなぁ」
食事も終盤といった辺りでこちらに向かってきたランフランクに気付き、クリスが小声で甲斐に伝える。
しかし、彼は隣のテーブルのビスタニアに声を掛けて耳打ちをした。
そして慌てて立ち上がったビスタニアを引き連れ、食堂を出て行ってしまった。
「……何このすっぽかされた感じ。ちょっと傷つく」
「ご、ごめんなさい! いつも貴女に用があったからてっきり……ねぇ?」
「でもなんだろうねぇ……、ナヴァロ君顔色悪かったけどぉ……」
「はっ、あいつがいつ健康的な顔色してたんだよ。どうせ名前入りのブリーフでも廊下に落ちてたとかその辺の話だろ」
シェアトはこの発言でクリスにどやされていたが、甲斐は空いたウィンダムの向かいの席を見ている。
彼にとっては余り良い話ではなさそうで、気になっているようだった。