第百三十四話 君がいいんだ
「おお、可愛い。新しい生き物発見!」
太い木々に隠れるようにしてこちらを見ているのは、お世辞にも可愛いとは言い難い風貌の生き物達だった。
背丈は甲斐と同じ位で真っ白な鱗に覆われた身体を支えるのに十分な逞しい足、細く折りたたまれた翼も白く、手は足に比べるととても小さいが黒い爪が生えている。
瞳は切れ長だが黄色く、黒い瞳孔が縦に入っており、面長だ。
ばしんと地を叩いたのは長くしなやかな尾だった。
見る者を圧倒し、全てを理解する知能を持ち、その破壊力は兵器に値するという。
『ドラゴン』だ。
「……ドラゴン! この大きさなら子供ですね……。とても賢いそうなのでこちらから何もしなければ攻撃しては来ないと思いますが気を付けて……流石機関の学校ですね ……っておい聞けよ!」
一番近くにいたドラゴンの鼻筋を撫でている甲斐に怒鳴ると笑い出した。
クロスの声に驚いて、彼の傍にそっと近付いて来ていたドラゴンはどたどたと走って逃げ出してしまった。
「なんかツッコミがシェアトそっくりだね、流石兄弟。でもこの子達本当にドラゴンなの? ていうか初めて見たけど凄い懐っこいね。乗せてくれるかな?」
何故か彼女の周りにはドラゴンが集まって来ている。
まるで自分が乗せてやるとでもいうように次々に翼を広げ合い、威嚇をし合っていた。
大きく開いた口にはしっかりと牙が生えそろっており、その声もまた身を震わすような獰猛な声に聞こえクロスは顔色が悪くなる。
「……あれ、まだあそこに一人いんじゃん。クロスちゃんの後ろ」
見れば、先程逃げて行った気配のドラゴンではないだろうか。
しかし、どうにも同じ種類とは思えない。
白、とうよりも灰色に近い鱗に覆われた体に若干締まりのない腹。
上手く畳めないのか出しっぱなしの羽は黒く、瞳は他の者と同じだが手の爪はいくつも折れてしまっている。
その指は不安を隠し切れないかのように、ざわざわと動いていた。
開いたままの口の中は同じように牙があったが、首を傾げる仕草も相まって全く怖くない。
「……なんですか、これは……。他より一回り小さいですけど……」
一声鳴いたその声は、やはり他に比べると高かった。
どうだとばかりに翼を広げ、どたどたとユニークな動きをしながら背中をクロスに向ける。
「何その子、凄い可愛い。その子にしようよ、乗って戻ろう」
ドラゴンたちはどうやら人の言葉が分かるらしく、不満そうな声を上げている。
体の大きな一匹がクロスの前で構えているドラゴンを一睨みして、追い払おうとする。
怯えながらも、翼を仕舞おうとしない不細工な龍はとうとう尾に弾かれて木に衝突した。
「お、おい……やめろ! 僕達はこいつで帰るから……ありがとうな、また頼むよ……」
立派な龍はクロスとよろけながら再び背を向けて構える龍を一瞥すると、一声大きく鳴いて森へ帰って行った。
それに続いて甲斐の周りに座っていた龍たちも一撫でして貰うと、森の奥へと戻って行ってしまう。
「……一番可愛い子選んだね、もしかして面食い?」
「僕は可愛い子には優しい、面食いですよ。 ……だから貴女に冷たいじゃないですか。まあ、このドラゴンが可愛いかはアレですけど……」
クロスの言った意味を考えている甲斐を後ろに乗せ、小さな仲間外れのこのドラゴンは大きく翼をはためかせると一気に上昇した。
大きく、そして誇らしく鳴き声をあげると森の上を一度旋回してから学校を目指し羽ばたく。
もう感覚の無くなった手で龍の背を撫でると、嬉しそうに高く鳴いた。
その声を聞きながら上空の空気を目を閉じて感じていると、後ろのうるさくはしゃぐ声も今は余り気にならなかった。