第百二十五話 それぞれの再会
フルラがリビングに入ると、もう家族は揃っていた。
「ただいまぁ!」
姉のキャシーと兄のフランクが久しぶりの妹に飛びついて行くのを両親は微笑ましく見ている。
「やっだ、ちょっとなんだか可愛くなったんじゃない!? ……やだ、フルラったらまだおさげなの!? 髪の毛下ろしたらもっと可愛いわよ!」
「うぅ……いいの、これじゃないと学校で大変なの!」
「それにしても、去年に比べてなんだか雰囲気が変わったな。良い友達が出来たのかい?」
「……うん! それがね、凄いんだよ! とっても元気でびっくりする位なんでもありな子なんだけどね!」
こんなに楽しそうに話すフルラは、初めてだった。
家族が常に祈っていたのは成績の事や、良い企業への就職なんてものではなく、人一倍引っ込み思案な彼女が楽しく学校生活を送れるように。
ただそれだけだった。
フェダインへ入学して最初の年、去年のこの時期に帰省した彼女は相変わらずで学校生活について軽く聞いてみても楽しいよと弱く笑うだけだった。
本人の問題でもあるので、それ以上は聞けずにいたが、学校へ戻る際の見送りも引き止めてしまいそうな母を父が肩を抱いて制止していた。
連絡も取れなければ、顔を見られるのは年に一度の帰省の時だけ。
そんな環境でこの気弱な娘が元気でやっているのか、不安でたまらなかった。
だが、どうだろう。
去年の彼女とは違い、言葉は踊るように次々に流れ出し、夕食後まで皆邪魔する事無く耳を傾けていた。
一方でルーカスが家に戻った時、まだ父は帰って来ていなかった。
一年ぶりの家の匂いに包まれながら、キッチンに立つ母にそっと声を掛ける。
「ただいま、母さん。父さんはまだ仕事?」
久しぶりに帰った息子の声は、まるで当然のように響いた。
「ルーカス……! 予定よりも遅かったから心配していたよ……! 大丈夫かい? 何かあった?」
「ごめんごめん、ちょっと授業日数が変わってさ。ただいま、母さん」
キッチンで抱き合っていると、大好きなビーフシチューの匂いがした。
飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けば、いつ帰るともしれない息子の為に予定していた日から作り続けていたのだろうと分かるほど好きな物ばかりが入っていた。
チェリータルトにエッグマフィン、そして一人分が保存されているマリネや厚切りのベーコン。
この家で甘党なのもルーカスのみだった。
「……お腹空いたな、これ食べてもいい? 今なら、全部食べれそうだ」
「あらあら、夕飯前だっていうのに。全く仕方ないねぇ」
後ろを振り向かずに、母は返事をした。
途中で鼻をすする音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
全てをテーブルに並べ、母の味を一つ一つ噛み締めていった。
クリスの家はやかましかった。
その中で父は存在が消えているかのように、大人しくテレビを見ていたが音はほとんど聞こえていないだろう。
「相変わらず綺麗で良かった! それにしても母さんそっくりになってきたわね!」
「やだ、本当!? その言葉、『若い時の』って付かないなら問題よ!?」
キッチンから聞こえてくる家中に響き渡る笑い声に、テレビのリポーターの声がかき消される。
クリスがいなくなってから、このテレビはこんなに音が大きかっただろうかと思った。
かなり小さくしても聞こえる普段の音量から、久しぶりにボリュームを上げた。
家族で過ごすこの休暇中、三人は寝る前に残してきた甲斐達の事を思い出さない日は無かった。
もちろん心配もあるのだが、彼女達もこうして自分たちの事を思い出してくれているだろうかと考えてしまう。
そして学校に戻る日を数え、近付くごとに心が高鳴るのは初めてだった。