第百二十二話 モテる?モテない?大議論!
意外な事に床に転がるボトルが増えても甲斐はいつも通りだった。
それもどうかと思うのだが、彼女の場合は不思議とそんな人間なのだろうとすとんと納得出来る。
「はぁ……それにしても、お前ら女っ気とか無ぇの?去年も部屋で二人でクリスマスとか怖ぇよ」
テーブルを三つ使って料理を並べ、話しながら食べていると案外悪くない。
気が良くなったシェアトが唐突に二人に話を振ると、ビスタニアの眉はみるみる吊り上がって行った。
「あー、はいはいはい。もしかしなくても、モテない感じですか?」
今日一番嬉しそうな顔をしてシェアトは更に追及するが、ウィンダムがビスタニアとシェアトの顔を交互に見つつ仲裁に入る。
「い、いや……その逆でビスタニアはかなりモテると思うよ。凛としていて、何より少し派手な髪色だけど成績も良いし……」
友人の名誉を挽回するのにウィンダムが褒め言葉を並び立てるが、不機嫌になったビスタニアの顔を見るなり、真実と捉えていないのかシェアトはにやにやと笑っている。
真相は本人の口から直接聞き出したいらしい。
「お前はそんな事ばかり考えているから成績が悪いんじゃないのか、もっと他に目を向けたらどうだ。嘆かわしい……」
「ははは! でも、好きな人がいると毎日が楽しくなると思うけどね!」
「変な奴にしつこく付きまとわれると毎日が暗くなるけどね」
エルガの言葉に被せるように甲斐が吐き捨てる。
「……そういや、カイ。お前はその……ここに来る前はあれだ、前の学校ではその」
シェアトがこの流れに乗ろうと言い始めたまでは良かったのだが、最後まで言い切る前に尻すぼみになってしまった。
聞いてみたいのだが、前もタイミングを外してしまい聞きそびれていた。
「おじいちゃんかよ、あれあれそれそれ言いやがって! 何? はっきり言いなよ!」
「好きな人とかいたの、って聞きたいんじゃないかな? あ、それかモテたの?かな」
全てを察したウィンダムに言葉を取られ、投げやりに頷くと適当なグラスを掴んで飲み干す。
それは甲斐の飲んでいたシャンパンだったのだが、気付いた時には顔に火照りを感じた。
「ああ、なんだ。この空気に乗じて性的な事聞いて来るのかと思った。好きな人とかそういうのあたし、よく分かんない。告白といわれるものはあったっちゃあったけど、付き合うのもよく分かんない。よって、あたしはジャンル外です。ピーガガガ」
一同がやはりなという思いと、全てが分からないと言ってエラー音を出している甲斐にもう少し深く聞いてみたいという思いを持っていた。
思い留まったのは、エルガが甲斐の『告白された』というくだりで唐突に指を弾き出したからだ。
壁に真空波を当てながら威力を試している。
壁に丸い穴が空いた時、彼は確かに小さくよしと言って頷いたので、告白して来たという人物の気になるネタは放流するしかなかった。