第百二十一話 地獄のパーティ・開幕
「二名様ご来店でーーーーす!」
ビスタニアとウィンダムが食堂から食べ物を紙袋に入れてからロビーへ行くと、甲斐が出迎え、誰に向けてなのか大声を出した。
満面の笑みを浮かべているエルガと、頬杖を付いたまま仏頂面をしているシェアトが椅子に座っている。
本当に行っていいのか若干迷いはあったが、どの道月組を拠点にされているのだから同じ事だと腹を決めた。
「エルガ君! シェアト君! お招きありがとう! 光栄だよ! ほら、食べ物も持って来たし二品どころの騒ぎじゃないよ! 今夜はたんと盛り上がろう!」
友人がこんなキャラだったのかとビスタニアは耳を疑ったが、のこのこと来てしまった自分が人の事を言うことは出来ない。
座る様にエルガに促され、とりあえず腰を下ろす。
「さあさあ、大宴会の始まりだよ! ん? お酒って何歳からだっけシェアト」
「一番飲ませたくない奴が恐ろしい事言うな。成人の十八からだよ、残念だったな。俺らはまだ……ひっ!?」
完全に墓穴を掘ってしまった。
料理を取り落としたのは甲斐の年齢を知っているビスタニアだった。
にんまりと笑う甲斐が呼び鈴を連打している姿は、今までで一番恐ろしく見える。
「なんだい!? もしかして、カイは年上!? お姉様だったんだね!? 知らなかったよ! 通りで他の女子生徒とは違う物を持っているはずだ! いや、僕の見る目に間違いは無かったという事だ!」
「き、貴様余計な事を……! これだから馬鹿は嫌いなんだ!」
ビスタニアの本能が危険を察知している。
飲み物が皆の分出揃うと、甲斐が乾杯の音頭を取る。
校内で酒など出てくるはずがないという、唯一の希望だったシェアトの予想は砕け散った。
一人グラスではなくボトルを掲げて、息を吸うと大きな声で高らかに宣言した。
「それじゃあ……かんぱーい!」
言い終えるや否や、ボトルに直接口を付けるとぐいっと真上に持ち上げて喉を鳴らして飲んでいく。
心底部屋に戻りたい、いや戻るべきだったと後悔している二名と、余興の一つだと勘違いしているのか、何を勘違いしているのかは知らないが囃し立てている二名で分かれている。
そしてピンクの炭酸がみるみるボトルから消え去ったが、それは魔法などではなく全て甲斐の体へと流れ込んだのだった。
何故今ここにルーカスと言う名の制御システムが無いのかと、シェアトは歯を食いしばった。
まだこの宴は、始まって数分という事実が苦しかった。
「ほらほら、何二人暗くなっちゃってんの~? 今日は~何の日だっけぇ~? はいロン毛!」
「ははは、甲斐はいつも的を射た言葉を使うね! 今日はクリスマスイブさ! そこの二人もさあ、どんどん食べて飲んで忘れられない一夜にしようではないか!」
「そうだよ、ビスタニア! こんなにもいい友人が出来て、僕らは幸せ者だ!」
悪魔崇拝でもしているのかと、口から言葉が飛び出しかけたが命の方が大切だ。
余計な事は言わないに限るし、生き延びなければならない。
呼び鈴をまた連打している甲斐を見ながら、正常な二人はグラスを割れそうな力で握り締めていた。