第十一話 校長室へいってみよう!
重い沈黙が流れていたが、ギアは歯を閉じたまま溜息をついて話し出した。
「今の私の知識の範囲では、というだけですから勘違いしないように。勘違い? 思い違いですかね?
この場合どちらの方がいいんでしょうか。ひ……ひとまず、校長へ伝えてみましょう。統制機関へ連絡を取ってくれるでしょうし、きっとなんとかしてくれますよ。君達は他言無用でお願いします。もうすぐ夕食の時間ですし、先に戻っていて下さい」
甲斐とシェアトの強い目線に気付いたようで、どうやら思考の波に飲まれずに済んだようだ。
一方でルーカスは甲斐を置いて行く事に心配そうな顔をしていたが、ギアが安心させようとしているのかぎこちなく笑うと、少しの間の後、曖昧に笑顔を返して納得したようだった。
「そんじゃあ一旦ギア先生に任せるか。夕食の後にまた顔出しに来るからよ」
「そうだね、急にすみませんでした。カイ、また後で……ね」
「夕食とか羨ましい。羨ましすぎてむしろ憎らしいけど、二人ともありがとう。じゃあ、また……」
中央館の玄関で二人と別れると、ギアは甲斐を連れて再び中へ戻ると服の中へしまわれていたネックレスの銀の鎖を首元から引っ張り出した。
鎖の先には大きく。そして酷く錆びついた鍵が一つだけ繋がれていた。
「あれ、お洒落ですね。脱獄囚みたいで」
「ははは、カイちゃんはいつか その口が災いして命を落としそうですね。これから貴方は私と校長室へ行くんですよ」
全く愉快そうな顔をしていないギアにうすら寒いものを感じていると、ギアは鍵を空に差し込んだ。
そしてぶつぶつと聞き取れそうで聞き取りにくい音量で何かを呟き始めた。
「世界の理・光と影は此処に・全てを見つめる観測者は何処に」
みるみる鍵は新品のような輝きを取り戻していき、光の線がギアの前にドアをかたどっていく。
「知るには遥か・時が足りぬ」
言い終わると同時に鍵を回すと光が一瞬強くなった。
そしてそれらは一瞬で弾け、そこには木製のドアが出現していた。
鍵穴にはギアの持っていた鍵が刺さっている。
「さてさて、お待たせしました。行きましょうか」
「マジもんのアレだよこりゃあ……!」
驚きの余り、訳の分からないことを口走りながらドアを開けて先を進んでいくギアを追う。
ドアを閉めると、中央館のホールに現れていたドアは消えた。
中はドアと同じ幅の階段があり、両側には不揃いな高さで窓があり、それぞれに異なる景色、時間の景色が写っている。
ちょうど通り過ぎる時に、甲斐の横の窓は土砂降りの中大きな落雷が落ちていった。
「校長室はここです、少し待っていて下さい」
服を整えようにも下着に見えるような寝間着姿にジャケットを羽織っているだけで、とどめに裸足で歩いて来た甲斐には乱れている髪を撫でつけるしか出来なかった。
ノックをするやいなや、ドアを開けて甲斐へ手招きをする。
元の世界で校長室へ入ったのは、小学校、中学校共に悪さをした時だった。
そんな思い出がふと、頭をかすめた。