第百十八話 仲良くなるには食事から
「忘れてた、これ。ほらよ」
四つ折りにされた紙が何かすぐに分かった。
カレンダーの横に貼っていたはずの校内の地図だ。
部屋に戻ってからすぐに無くなっていたのに気付き、必死に部屋を探したり、掃除を担当したお手伝い天使を追及したが見つからなかったので諦めかけていた。
「あたしの部屋に侵入したという事実と共に、それをアピールしてくる神経が猟奇的で震えが止まらないっ!」
「俺にも選ぶ権利はあるし、勘違いしてんなよこのバカ! お前見つけんのにチビ二号に取って来て貰ったんだよ!」
二人はいつも通り賑やかだが、人が半分以下になっている校内で食堂にいるのはほんの数名の為、声が良く響いている。
どうにも休みとなると気が抜けるのか、エルガは朝食に間に合わないので、三人になってからは幾つかの軽食を選んで持って行ってやるのが日課になっていた。
「それにしても、本当にがらんとしてるね。先生達は皆いるけど」
「そりゃ、家族で過ごすのが定番だろ。俺もエルガもここで過ごすのは初めてだしな」
他の席の生徒を見ながら二人は食事を進めて行く。
すると急に甲斐の食べる速度が上がり、飲み物で流し込むと席を立ってしまった。
「お、おい。どこ行くんだよ……チッ。朝から嫌なもん見ちまった」
悪態の先は派手な頭が二つ向かい合わせに並んでいる席だ。
そこへ一直線に向かい、声を掛けている甲斐を見て思わず舌打ちが出る。
にやにやとしている甲斐とは逆に、どこか元気が無いビスタニアと、二色の頭の色をしている割に相変わらず丁寧な物腰のウィンダムが一瞬こちらを見る。
小走りでこちらに戻って来た甲斐はシェアトを立たせると、二人のテーブルまで連れて行こうとする。
抵抗しても無駄だと諦め半分に付いて行くと、よりによってビスタニアの隣へ座らせられた。
「なんでこいつらと朝から顔突き合わせなきゃなんねぇんだよ……」
「それはこっちの台詞だ、 俺はお前の数十倍嫌な思いをしている。いいか、不愉快だ。不愉快だぞ」
「だったら席を外せよ、お坊ちゃん。どんなに食ってもお前の病的な顔色は変わらねぇぞ」
「……常識と品格を身に着けられなかった人間は哀れだな。誰も言ってくれないようだから教えてやる、どちらも後からなんて身に付かないぞ。諦めろ」
甲斐に聞かれないよう隣のビスタニアに顔を近付け、小声で二人は醜い言い争いを続けている。
隣り合っている甲斐とウィンダムは、幼い我が子を見守る親の様な表情をしてにこにこと話し出した。
「友人が集まると朝食は更に美味しくなるよ、たまにはいいね。いつも僕らは二人だからさ」
「そうだね、二人も最近仲良しだし。こうやって引き合わせてあげないとダメな所が面倒なんだけど」
案外ウィンダムと甲斐は話が合うようだ。
「はは、お互い苦労するね。カイちゃんは残る組だったんだ、クリスマスイブから料理がかなり豪華になるから楽しみにするといいよ」
「そうなんだ、あたし案外こう見えてもそんなに食べる方じゃないけど、せっかくだから努力してみる。体の臓器を全て胃袋に変える魔法ってあるかな?」
「全てって事は心臓もかあ……。う~ん、それで生命機関を維持するには……。ちょっと食べたら実験してみようか、手伝うよ」
「「やめろバカコンビ!!」」
声が揃った瞬間、犬猿の仲の二人は睨み合い、再び罵り合いが始まった。
しかしその言葉は、以前のように身を切り裂き合うような物ではなくなっている。
その変化に当人同士は気付いていないようだが、甲斐とウィンダムは目を合わせて笑い合った。