第百十七話 残された三人・問題児なり
「またね、クリス。次に会うときゃ来年だけんのぉ……おどりゃよう覚えときぃ!」
「ああ……カイ、貴女としばらく会わないと接し方を忘れそうで怖いわ。じゃあ、あの二人にはくれぐれも気をつけてね。本当にろくな事しないんだから!」
甲斐とフルラをそれぞれ抱きしめると、クリスはスポットからシャンの手によって送られて行った。
全員で見送りに来ているが、クリスが消える直前、シェアトが手を早く行けとばかりに振っていたのを彼女がばっちり目撃してしまったのを皆見ていた。
最後に見せたクリスの鬼の形相が皆の網膜に焼き付いている。
「本当に君はろくな事をしないな! クリスが戻って来る日までに逃亡する準備をするか、頑丈な移動式シェルターを確保しておくのをオススメするよ」
「僕もその案に賛成だな……。それにしても、エルガも大概だけどね。この前の君の嘘のせいで僕たちまでクリスに酷い目に遭わされたんだから……」
うるさく騒ぎ出した三人を無視して、甲斐とフルラは一際長く抱き合っていた。
抱き合うのに飽きたのか、甲斐がフルラの腰をしっかりと腕で締めて持ち上げ、そのまま十回高速で回るとスポットへ投げ入れた。
「ほい、オッケーっす! やっちゃって下さい!」
「ひ、酷いようおぅえ……ぎ、ぎぼぢわる……」
別れもしっかりと終えぬまま、フルラは送られてしまった。
これには流石に三人とも若干同情はしたが、ノリノリで送るシャンもシャンだなという共通の思いがあった。
そして、最後はルーカスだった。
この問題の三人だけを寮に残していなくなるのは、非常に不安だが信じるしかない。
「また、会えるといいね……。ほら、二人もなんか言う事無い!? 最後のチャンスだよ!?」
「今生の別れのように言わないでくれるかな? じゃあ、行って来るね。また来年。あんまり物壊さないように、あと人に迷惑をかけないように。休暇中でも羽目を外しすぎないでね」
「うるせえなあ、このオフクロは! とっとと行け!」
「僕らと会えない日々が不安なのは分かるさ……特に僕とね! しかし離れがたき気持ち、それこそが僕らの友情なのだよ!」
困ったような笑顔を浮かべてスポットに入ったルーカスに、三人は手を振って見送る。
「また、来年。体調に気を付けるんだよ、本当に大人しくしてね」
「一番の貧弱がなんか言ってらあ!」
悔しそうに頷くルーカスは、シェアトの笑い声を聞きながら消えていった。
シャンが並んでいる帰省組の生徒を次々に送っていくのを背にして、三人は寮に戻る。
自分のせいでクリス達の帰省が遅れた事は散々謝り倒した甲斐も、やはり人数がいつもの半分のせいか物足りなさを感じていた。
あともう少しで、クリスマスだ。
一応その日は盛大に遊び倒そうと計画をしているが、今からある意味でドキドキしているのは、常識人と鬼がいないこの状況で無事にその日を終えられるかという不安が大きいからだった。
「っはー! クリスマスはやりたい放題できるな! なあ、カイ!」
最悪、この元凶を消してしまう他無いようだ。