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魔法学校に転送された破天荒少女は誰の祝福を受けるか~√8~  作者: 石船海渡
第4章 鳴かない動物に意見は無いか
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第百十四話 父の言葉

 思わず顔を上げてしまい、窓ガラスに反射して映りこんでいる父の表情を見てしまった。

 体が、凍りついたように動かなくなった。


 そこにあるのは、怒りではない。

 言うなれば、話の通じない頭のおかしな者が目の前にいるかのような、軽蔑と嫌悪感が合わさっている侮蔑の顔だ。


 父にこんな顔をさせてしまうような自分は、一体あの学校で何をしていたのか。

 何故もっと寝る間も惜しんで励まなかったのか。


 考えの甘さを思い知らされ、いくら後悔しても遅いのは分かっていたが自分を責めずにはいられなかった。




「……今までの私が、間違っていたようだ」




 幾分か、人間らしさのある声で振り返ったサクリダイスに動揺を隠せない。

 こんなに長い間、目が合っているのは一体何年振りだろうか。


「防衛機関に入るという道を選ぶのだとてっきり思っていたが、違うのだろう? 今まで、悪い事をしたな」


 父親が、何を言っているのか理解するのに時間が掛かった。

 ナヴァロ家の長男は代々、フェダイン魔法訓練専門機関学校へ入学後、首席で卒業をして、世界魔法防衛機関へストレートで入っている。

 もちろん、自分もそれを目指して常日頃振る舞い方への配慮や努力を欠かさなかったつもりだ。

 常に誇り高く、現防衛長へと上り詰めた父を、先代を、そして代々守り受け継がれ、築き上げたこの由緒正しき『ナヴァロ』を心から尊敬していた。



「名を捨てろ。卒業までは面倒をみてやる。しかしそれ以降は知らん。勝手に寿命を全うしろ。この家に、貴様は不要だ」


 この家に生まれたのを、後悔した事は一度だって無かった。

 他に兄弟のいない自分に父は期待を込めて育てて来たのも知っているし、厳しい言葉は父なりの愛だとと思えばやる気が出た。

 お前はそれだけ出来る人間なのだ、と言われているようで。


 苦に感じた事など、一度だって無かった。

 『ナヴァロ』の名を背負う自分も、いつか父のようになりたいと、その為にも期待に応え続けたいと思ってきた。



 しかし、父は今確かに自分に『名を捨てろ』と言った。

 そうか。

 この家に、自分は、不要なのか。



 はっきりと、人が失望する瞬間を見たのは初めてだった。

 眉間に手を当てている父は、自分の返事を待っているのだろうか。


 何か、言わなくてはとも思うが父に対して聞かれていない事を話すのは久しぶりだ。


 幼稚舎の頃に聞かれた事以外、余計な事を話すなと言われた。

 男たるものそういうものかと、寡黙な父を真似て育ったからか最近は人と話す機会が増え、不思議な感覚だった。



 話す時に、舌はこんなに邪魔だっただろうか。

 声はくぐもり、つっかえてしまう。


 

 しかし、言わなくては。



 どんなに無様だったとしても、伝えなくては。



「とっ……と、父さん。しっ、試験結果がっ……二度も、こんな事にな、なってしまって……も、申し訳ありませんっ……。です、ですがっ……らっ、来年の卒業試験ではっ、必ずっ……必ず首席で卒業致しますっ……。もっ、もう一度だけ……最後の、最後の試験まで……待って下さい……」

「……私に二度ならず三度も機会をねだるか。どの道卒業まではその名を預けるつもりだった、いいだろう。しかし、相変わらずどもりが酷い。もう聞かれた事以外話すな、不愉快だ」


 そう言うと、ビスタニアに肩をぶつけてリビングを出て行ってしまった。

 その衝撃は大したものではなかったが、足の力が抜けてしまい、破片の散らばる床へ体が向かい、手を付いてしまった。




 痛みは、感じなかった。

 ただ、どこか、どこかが酷く痛んでいるようだ。



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