第百九話 異世界人の処置方法
立ったまま、特に体に不調も感じず、アトラクションのスリルも無いまま四人が辿り着いた先は校長室だった。
甲斐以外、ここへ来るのは初めてだったが、目の前にランフランクが立派な椅子に腰を掛けてこちらを見ている姿と、彼以外が存在しないこの部屋は校長室以外なんでもないように思えたし、そう考えるのに十分な威厳が漂っていた。
「騎士達も栄誉の帰還か。全く、予想以上だ」
彼らを見るランフランクの目は鋭く、そして険しかった。
全く予想外の場所に突然到着し、校長を前に何を言ったらいいのか分からない。
そんな中で三人の今までの経緯を知らない甲斐は呑気に話し出す。
「ただいまランラン! あたし、結局何も見つけられなかったよ。ただあたしそっくりのもう一人のあたしがいるみたいで、その子が凄く」
エルガに後ろから手で口を塞がれ、シェアトが威勢を取り戻して吠えた。
「楽しい日本旅行でしたよ、校長。カイをどうする気だ?消すのに失敗したから、コイツを消せる次の手が浮かぶまでここで飼い殺すのか?」
「シェアト、言葉を選んで。相手は校長だ、冷静になれ」
挑発に乗るような人物ではない事は分かっているが、下手に刺激してここで何かが起こってもこちらに一切の勝ち目は無い。
しかしランフランクは喉を鳴らして笑うと、深く息を吸って吐き出した。
「……先に言っておこう、私は生徒達を守るのが務めである。そして君たちの達したであろう結論も、分かっている。これから話す事は、カイ。君にとってはあまり喜ばしい話ではない。だが、ここまで来たからには話すべきなのだろう。抱える覚悟を、用意しろ」
そう言うとランフランクの向かいに四つ魔方陣が出たかと思うと、椅子が出現した。
端からルーカス、シェアト、甲斐、エルガの順に座るとランフランクはゆっくりと目を閉じて話を始める。
「機関がかなり早くから彼女の出現に気が付いていた。そしてここにいる事も知っている。私が暫くいなかったのは、機関に呼ばれていたのもある。異世界から突如現れる人間は前例の無い話ではないようだったが、戻り方を知っている者は誰一人としていなかった。彼らが私にした提案は、この世界にいるであろうもう一人のカイを彼女と接触させる事だった」
「え? 機関って?」
小声でシェアトに目配せをして聞くと、彼もまた小声で返す。
「色々あるから、俺もどの機関か分かんねぇ。黙ってろ」
「……いいかな? 異世界から来た者と、この世界のその者が接触すると異世界の者は消えてしまう。消えた者のその先は誰も分からないが、今までそうして来たのだろう。彼女が現れた数時間後には、位置の特定と世界中の文献に対して規制が入った。もちろん我が校も例外ではない。ベイン、気付いただろう?」
やはりある程度、ルーカスの予想は正しかったらしい。
甲斐は初耳ではあるが、自分の待遇について知ると目を白黒させている。
「ひえっ!? 知らぬ間にあたしの抹殺計画進行してた!」
「うるせえ、知らねぇお気楽野郎はお前だけなんだよ。顔のテンションおかしいぞ、どうにかしろ」
「……はい、異世界に関する全てが世界中から消えていました。……当人が調べた際に、どういった措置が行われるか知られるのを避ける為ですね?」
「左様。まあ、カイにとっては不要な規制だったがな。そして、先程言ったその機関だが……世界魔法防衛機関だ」
どこかで聞いたことのある名称な気もしたが、三人が黙ってしまったので聞くにも聞けず一人思い出そうと奮闘する甲斐の脳の引き出しは以外にも軽く、思わず声に出してしまった。
「ナバロ! ナバロのお父さんのとこだ! ……あれっ、嘘」