第十話 どうにもならない事もある
重い扉を勢いよく開けてきたギアはどうやら中々力があるようだと甲斐は恐れを抱いている中、二人はギアを椅子に座らせ、その向かいに椅子を持ってくると甲斐についての説明を進めていた。
「という訳で、僕もまだ出会ったばかりなのですがなんとかなりませんか?」
うまくまとめて話をしていたのはルーカスだった。
「とりあえず話は分かったけど……トードーカイちゃんだっけ? 初めまして私はギアです。ギア先生でもいいけど、君にとっての私は先生でもないのにそう呼ばせるのもおかしい? おかしくない? でもかといってギアさんも少し気恥ずかしい気もするなあ。あれ、どうして気恥ずかしいなんて思うのかな。照れている? あら? 照れってどんな時に照れたら正解なんだろう。イコールで出るものではないし、人によって違うものなのかな?」
「そうですカイです、初めまして。呼び方についてはお構いなく、あたしもギア先生って呼ばせて頂きますので! よーし 、もう殴っていいですか?」
にこりと甲斐はギアに笑いかける。
予想外の言葉にルーカスは立ち上がった。
「おかしいよーーー! ダメに決まってるでしょ? 何で聞いたの? まるでその為に来ました、みたいに言ってるけどおかしいでしょ!?」
「よし、お前は身長的にボディを狙え。俺は顔にする」
「シェアトも錯乱しないで! まだまだ先生の授業有るでしょう! 明日からどんな顔して授業出ようとしてんの!? それで、ギア先生どうなんですか!?」
これまでの間に分かったことは二人が思った以上に短気ということだ。
ギアは常にこういった状態であり、授業中も自分の果てない思考の世界にずるずると入り込んでいくのを、誰かしらからの突込みで引き上げられているが、知識も豊富で引き出しが多く、更に教え方が非常に丁寧な為、意外にも授業は人気なのである。
「……他の世界があるというのは昔から言われている説でもあるので、私にとってはそんなに衝撃ではないというのが今の所の感想なのですが、問題なのはどういったきっかけでこの問題が起きたのかです。先程の話からいくと突発的な頭痛が起き、階段から落ちた……、きっかけが頭痛だったのか階段から落ちたのかも分かりませんよね」
黙って耳を傾けている三人を見ているのか、はたまたその先を見つめているのか分からない目のままギアは話し続ける。
「自覚の無い記憶喪失の線も考えてみましたが、確かに組の総合授業の担当である私もカイちゃんを見たことがないですし、本日の入校許可者もおらず、編入生の話も出ていなかったです。部外者がこの学校のスポットを見つけて開錠まで出来た上で記憶喪失になる可能性はあり得ないと言い切れるでしょう。そう考えるとやはり異世界から来たというカイちゃん自身の推測通りでしょうね」
「でも……来たってことは戻れるってことですよね?」
ルーカスが思わず口を挟んだ。
「方法が分かればですけどね。それに戻る先の世界が正しい世界かしっかりと立証されないといけませんね。今回はカイちゃんが来た世界がここだったのでこうして共に考えられますが、方法が見つかったからと送り出した先が全く違う世界だったらどうします? 行き着いた世界が平和じゃない可能性もありますよ?」
「あれ、魔法でちゃちゃーっと戻してもらえる雰囲気じゃないようなんですが。まさかですよね、魔法があるんだし戻れますよね?」
やはり、甲斐も全てを理解している訳では無いだろうがこの不穏な空気に気が付いたようだ。
「魔法がなんでもできる訳ではないんですよ。勘違いしてはいけません。万物から自らに足りない力を借りていると論じる者もいますが、素質と本人自身の力が要でもありますし、知識は力へ比例します。命を終わらせることは出来ても、作り直す事は出来ませんから」
「シェアト、今までの説明の要点を言うと?」
また、難しい方面へと話が流れていくのを察知した甲斐はシェアトへ話を振ってみる。
「異世界から来たのは信じるけど、魔法でもお前を戻すの難しいんだよね……ってよ」
甲斐が驚いた表情をしたのは、戻れないかもしれないという事実ではなく、自分よりもシェアトの方がちゃんと話を聞いていたという事に対してだった。