第百六話 お待たせしました登場です
「……痛ぇ……あの野郎…雑なんだよ、魔法が……」
体をバラバラに揺さぶられるような激しすぎる感覚の後、三人はかなり高い場所から落とされたようだった。
吐き気を堪えながら立ち上がるが、足元がおぼつかない。
エルガは塀に手をついてなんとか立ち上がってはいるが、唇の色が悪く、無意識に震えているようだ。
一人悠々と体を伸ばす運動をしているのはルーカスで、二人の回復を待っている。
「僕は結構ぐらぐら頭とか揺らされる感覚、嫌いじゃなかったなぁ。最近のアトラクションって死ぬかもって気持ちになれないのが多いから、楽しかったよ! あ、口直しにキャラメルダイス食べる?中からチョコとか出て来るよ」
「うぷ……。ナチュラルに俺を殺そうとしてんじゃねぇ。それ食うなら雪でも食ってた方がましだ」
「……神よ、ストゥーに世界中の不幸が全て集まりますように」
「それを叶えるとしたら邪神だな、高く付くぞきっと。それにしてもホントにここで合ってんだろうな……」
地面に落ちていた地図を開いてまず甲斐の居場所を確認すると、移動はしていないようだ。
次に全員の位置を表示させると、かなり近くに飛ばしてくれたようだ。
指定した場所とは若干のずれがあるが、恐らくストゥーが集中していなかったせいだろう。
実際の所、三人はストゥーのあの態度を見ても半信半疑だった。
もしかしたらランフランクの手が回っているかもしれないと考えていたからだ。
そうすると、日本へ飛ばす提案は却下され、更にランフランクへこの行動を報告されてしまう恐れもあった。
更に三人が立てた最悪な予想では、全く違う場所へ飛ばされていたかもしれなかったのだ。
しかし、何の問題も無くこうして日本にいる甲斐の傍へ来れた事を考えるとストゥーは完全に騙されてくれたようだ。
一機関の運営する学校の教員がそんな人物で大丈夫なのかと、心配になるが今回は手放しに喜んでもいいだろう。
「おい! すぐそこにカイがいるぞ!」
「ということは、まだもう一人のカイに会っていないのかもしれないね……」
最悪の事態は免れているようだと分かり、ルーカスは安堵の息を漏らした。
「もしかしたら、もう一人のカイが存在していなかったのかもしれないよ。だとしたら僕達の考えは根底から間違っていることになるね」
こんな時でも表情を硬くせず、微笑んでいるエルガは凄いとルーカスは思った。
「でもそうすると、校長が心から奇跡を信じてまでカイを危険に晒したって事になるし……。それにあのギア先生を使ってまで無理に日本に送った理由も……。う~ん、目的が分からないな……」
「なんでもいいじゃねぇか! んな事は校長に後で直接聞きゃいいんだ! まずはカイの安全確保が先だ!」
地図を見ながら、三つの人影が甲斐の小さな人影に近付いて行くのを確認しながら先頭を切って走るシェアトに二人は続いた。
とうとう地図上では目の前まで来たのだが、彼女は見当たらない。
どうやら甲斐はこの一軒家の中にいるらしい。
表札には筆記体でトウドウと書いてあるのを見たエルガが、何故か執拗に髪を整えて発声練習をし始めた。
呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばした時、玄関ドアの擦りガラスの部分から白い光が強く漏れ出した。
顔を見合わせ、力を込めてドアを叩く。
あの光は、甲斐ではない誰かの魔法が発動した物だ。
光の強さは力の強さであり、魔法を使える者はこの世界の中でかなり少数のはず。
嫌な予感がしたのは、シェアトだけではなかった。