第百五話 ランク・エキスパート
その頃、甲斐はこの部屋の主が在学していると見られる学校のパンフレットを真剣に読んでいた。
住所は見た事のある地名だが、かなり遠いようだ。
身一つでここに来てしまったのを少し後悔したが、学校に出向く他に何か出来る事が無いかと中に目を通す。
かなり専門的な分野の魔法を研究をしている学校のようだ。
研究の結果は様々な商業魔法として使われたり、開発に携わる事が出来るらしい。
『この世界に新しい発見と提案を』、というキャッチフレーズが表紙で点滅している。
商品化された一例として挙げられているページの中には、人を感知して咲き誇る花もあった。
ここに通っているこの世界の自分は、もしかしたら中々頭の良い子なのかもしれない。
どうやら学科が分かれているようだ。
あまりにも細かく分けられている為、見ていると目がちかちかして来た。
学生証の裏面を見てみると所属している学科が書いてあった。
『技術開発応用科 ランク:エキスパート』
ランクについての説明をパンフレットの目次から引き、読んでいく。
研究結果の商業化実績とその社会への貢献により、入学からランクが上がって行くようだ。
入門・初級・準中級・中級・準上級・上級となり、それぞれの試験にも合格すれば昇級となり、中級までランクを上げれば卒業できるらしい。
そして上級者のみに受けることが許される試験と実績とそれに対する評価により、エキスパートへとなるようだ。
考えただけでも遠すぎる道だ。
これが同い年で、世界の違う自分の功績だと思うと何かの間違いなのではないかと思う。
「……なんだろう、この世界のあたしってヤクザだったりするのかな……。だれも甲斐ちゃんに逆らえなくてエキスパートにするしかなかったとか……」
野蛮だ何だと若干の僻みを含めてぼやきつつ、読み進めて行く。
エキスパートの者は、自由に学校の提携企業とやり取りをしてその依頼による仕事を引き受け、報酬を貰う事も可能らしい。
生徒達の写真を見ていると、年齢層も様々で皆白衣を着用していた。
なるほど、制服は制服でも白衣という訳だ。
学校自体は最大で八年間通えるらしいが、中級まで取ってしまえばいつでも卒業可能だと書いてある。
「……てことは、スーパー甲斐ちゃんはなんかの仕事でどっか行っちゃってるのかな。なるほどなるほど。 よし、分かったけど何も分からん!」
ベッドの上にパンフレットを投げ捨てた。
あまりにも現実の自分と違いすぎており、現実感など無かった。
こんな優秀な人物になれる可能性を秘めているというだけで、非常に気分はいいようだ。
「そんなに頭の良い子なら、あたしの戻り方も知ってたりするのかな。……ん? あれ、あたしそういえばどうやって学校に帰ればいいんだろ……。……あれ? いつ戻るんだっけ?」
あんな状態でこちらに送られてしまった為、開錠スペルも知らないままだ。
ここに来てようやく、冷や汗が出て来たようだ。