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第百二話 剣士と守護者と賢者はいざ行かん

 今にも雪が降り出しそうな空模様だった。

 冬期休暇初日はいわゆる帰省ラッシュではあるが、早起きをして朝から旅立つ組と、昼頃に時間をずらすお寝坊組に分かれるのが常だった。

 エルガの予想が当たり、フルラは早朝組だった。


「やあフルラ、クリスは一緒じゃないのかい?」



 しかし、一緒にいるものだと思い、警戒していたクリスの姿が無い。



「お、おはよう。うん……今日の予定だったんだけど、ずらすかもしれないって……。あ、クリスちゃんなら、部屋にいるよ。……呼んで来る?」



 やはり元気が無いようだ。



 しかし用があるのはクリスにではなく、彼女にだった。

 クリスでも良い事は良いのだが、あのうるさい口を閉めさせるのに手を焼いてしまう。

 彼女のいない今が絶好の機会だった。

 微笑みを絶やさず、出来るだけいつもの雰囲気で話を続ける。


「いや、いいよありがとう。実はちょっとフルラにお願いがあるんだ。聞いてくれるかな? ああ、お礼かい?僕からのキスをプレゼントするよ! ま、待つんだフルラ!」



 当然の反応ではあるが、フルラは脱兎のごとく逃げ出した。

 その様子を振り返りつつ確認していたルーカスとシェアトは口角が下がる。


「どうやらエルガに任せたのは失敗だったかもしれないな……」

「だから俺にしときゃ良かったんだよ! ……んだよその目は」














 シェアトが行って怖がらせてはいけないと任命されたのだが、早速逃げられてしまった。

 急いで追いかけ、どうにか彼女を捕まえたがなかなか激しく暴れている。


「やめてよう、私が何をしたのおお! どうしてこんな酷いことするのおお!」

「やれやれ、余り時間が無いんだ。話を聞いてくれるかい?カイの部屋に多分もう使わなくなった現在位置の分かる地図があるかもしれない。それを探して来て欲しいんだ」


 甲斐という単語が出た途端、フルラは暴れるのを止めると、特に何も言わずに頷いた。

 その素直さが少し不安だったが、今は彼女に任せるしかない。


 近付きすぎると走り出すという特性が分かったので、数歩後ろを歩いて太陽組の寮へと向かった。

 何度もエルガとの距離を確認しながらどうにか到着すると、早いもので数分かからずに持って来てくれた。


「良かった、あったんだね! それにしてもよく見つけられたね、ありがとう」

「見つけるも何も。だってカイちゃん、ずっとカレンダーの隣に飾ってたから……。あの、使い終わったらちゃんと返してあげてね。……大事に、してるから」


 いつの間にか地図を使わなくなり、その後の事を知らなかった。

 もしかしたら捨ててしまったかもしれないとも思った。


 地図の中には当たり前だが、甲斐の人型がどこにもいなかった。

 折り目に合わせて丁寧に折り畳み、降り出した雪に濡れないようにポケットのフラップを出して仕舞い込んだ。


「ああ、ちゃんと返すよ。……カイに、早く会いたいね」


 そう言って笑うエルガに、フルラは強く頷いた。

 昨夜から妙な不安がずっと心に残っている。

 それはきっと、目の前で笑っている彼に聞いても答えは返ってこないのだろう。


 自分もここに残れば、少しは何か手伝えるのだろうか。

 手に持っていた帰省用の荷物を床に置いた時、エルガの手が肩に乗った。


「カイも君からのお土産を楽しみにしているはずだ。フルラはイタリアだったね? 僕にもよく似合いそうな街だと思わないかい!? おっと、僕個人へのお土産はいらないから楽しんでおいで! さあ、バッグを持って。もう、落としちゃ駄目だ。引き止めて悪かったね、……行ってらっしゃい」


 口調は優しいが、手の力は少し強かった。

 バッグを手渡すと彼は雪の中を小走りで去って行く。

 東館に向かっているのだろう。

 こんなにも落ち着かない気持ちで学校を後にするのは嫌だったが、果たして甲斐は喜ぶだろうか。

 待っている人がいるのだろうと、以前に言われたのを思い返す。




 何も知らない自分が、ただ悔しかった。




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