どうしてこうなってしまうのか
私にユーモアのセンスが無いのは分かっていましたが、書いていれば何とかなるだろうと思っていたのが甘かったです。ギャグのひとつも浮かびません。書き始めたからには全力で行きますが、コメディじゃないとか笑えないとか思っても生暖かい目で見て下さると助かります。
大量の自我無き魔物たちはゲヒャルトに魔核を食われて消えていく。淡々と整然と、目の前で自害する魔物と、そこに残る魔核をひょいぱく飲み込む魔人。
不気味な光景だが皆は黙って眺めている。ゲヒャルト曰く、他の魔人に制御を奪われたら面倒だから効率悪いけど吸収するとの事。
胡坐をかいているゲヒャルトは甲冑を失い、黒いレザーのライダースーツ染みた服に身を包んだただの少女にも見える。
ビスクドールのようにあどけなく整った顔と美しい碧眼は、ちょっと品がない感じで口角を上げているせいで台無しな感がある。頭には立派な牛角と銀糸のような髪。見え隠れする耳は牛のそれではなく人と同じで、片耳だけに付いた三つのピアスがまたミスマッチだ。百五十センチも無い身長でありながらバストサイズは大きい。
牛だからだろうかと、ユウキは珍しく男子高校生らしい不埒な考えを巡らせた後、なんと失礼な言い種だろうかと自己嫌悪にドップリ嵌る。
それを横目で見たゲヒャルトがニカリと笑って、相変わらず魔核を啄みながら声を上げる。
「なあユウキ、女嫌いだってんならオレ様も無理強いはしないけどよぉ、別に男色家ってワケじゃないんだろぉ? さっきからチラチラオレ様の顔や胸に気が行ってるもんなぁ。優しくしてやるからさ、今夜一発ヤろうぜ~」
「え、いや、じろじろ見てごめん。でも俺は本当に苦手で……」
慌てて距離を取ったユウキは、真っ赤になり後ろを向いてしまう。人並み以下ではあるかもしれないがユウキとて男女のアレコレに興味はある。しかし、それよりは恐怖や苦しさが勝ってしまうのが現状だ。
サラはユウキを庇うように間へ立ち、常に細められた目元に剣呑な光を宿す。せっかくのチェリーっぽい美男子を先に食われてはたまらないと、大真面目である。
「なんとふしだらな事を仰るのですか。私の目が黒い内は許しませんよ」
サラが猫を被って言えば、げぺ? と首を捻ってゲヒャルトが返す。
「なんだぁ? オレ様とユウキを取り合いたいのか。しかし妙な事を言うなぁ。お前からはユウキ以外の男の匂いがプンプンするんだよビッチっ。ふしだらとか何とか、へそで茶が沸くぜぇ」
「な、な、な、何を言うのですか!」
ピアスのついた舌をベロリと揺らしながらゲラゲラ笑いをするゲヒャルトに、サラが言葉に出来ないほどの怒りで身を震わせる。
アンジュは、御婦人方の争いほど怖いものは無いですねと肩を竦めて遠巻きに見ている。完全に色男のそれだが違和感は全くない。
仕方なくエイルが止めに入ろうとするが、サラの周囲を紫電が踊る。バチリと彼に八つ当たりが飛べば、ふぁぅと情けない声を上げて涙目で撤退してくる。
ユウキにも止められるわけがなく、縋ってくるエイルを視界に収めないようにしつつ頭を撫でて慰めるのが精一杯だ。
サラの雷撃を全てレジストしながら、あーひゃっひゃっひゃと笑い転げるゲヒャルト。
「くぅぅ、こんな空け者に馬鹿にされるなど、なんという屈辱でしょう。せめて私に身体強化魔法の適性があれば一矢報いる事も出来ましたでしょうに!」
「ひーひー、あんまし笑わせんなよビッチちゃん。ユウキが困るからオレ様から手出しはしねえけど、あんまりヤンチャしてると痛い目に遭うぜ、お利口さんよぉ~」
とりあえず見た目以外は物騒な事にならないと見て取って、ケンカする二人は放置して残り三人で話し出す。
「そういえば、今更だけどユウキさんはどうして女性が苦手なのかな? カウンセリングもボクの担当だから相談に乗るよ」
「あ、うん……。自分でもハッキリとは特定できないけど、母さんに叩かれる事が多かったのと、十三歳の時に近所に住んでいたお姉さんに酷いことをされて……」
「それは辛かったでしょう。そういうことであれば私の事は男だと思って接してください。もとより女を捨てた身です」
詳細は口にできず言い淀んだユウキを見て、沈痛な面持ちになってしまった二人。ユウキは慌てて首を振る。
「えっと、そんなに気にしないでくれ。情けないところを見せるとは思うけど、少しずつ何とかするからさ」
「わかったよ。女性に迫られて怖くなったらボクたちが助けに入るから声を上げるんだよ」
ギュッとユウキの手を握るエイル。まったく意識していないが上目づかいでニッコリ微笑まれれば、つい男の子だという事実を忘れてしまう可愛らしさだ。
「そうですね。強い力と義務を押し付けられたユウキに、それ以外の面で負担を強いるなど騎士の名折れです。私が貴方を守る盾となりましょう」
跪き己の胸に手を当て頭を垂れて誓うアンジュは、ナイトかプリンスか分からぬような、女性のハートを射抜く心強い笑みを浮かべる。
そこに魔核を全て食べ終えたゲヒャルトがのそのそと歩いて来て、ユウキの顔を見ながらニヤつく。
「なんだ、ユウキからした女の匂いはそのお姉さんとか言うヤツのか」
「に、匂いって?」
「魂の匂いだよ。しっかりこびりついてるから魔人であるオレ様には分かるのサ!」
ゲヒャルトの自信満々な言葉と、指で作った輪に中指を出し入れする仕草に唖然とする一同。人間には知られていなかった魔人の生態が開帳されている歴史的な瞬間である。もっと知性的な魔人から語られれば感心したのだろうが、三下からセクハラ混じりに告げられても反応に困るという物であろう。
ユウキ咳払いをして、話題を変える。
「そういえば、魔人の名前って魔王が名付けるのか?」
「んあ? 自分で名乗るに決まってんだろ。オレ様なんざセンスが溢れてるから生まれてから三日も悩んじまったぜ。コモノワールとかゲヒャヒャハルトとか最後まで悩んだんだけど、ゲヒャルト・ゲドーちゃんが一番カッコよくて激プリティでアックスだから、こうなりましたーっと」
うひひと笑うゲヒャルトは、見た目だけなら可愛い。だが、言語とか服装や態度が組み合わさって悲惨な生き物になっていた。これにはユウキも、おう、と目を逸らして生返事しかできない。
「それはともかく、魔人同士で位置が分かったりはしませんか? もし分かるのなら出発後の行先が速やかに決まるのですけど」
アンジュがせっかくなのでゲヒャルトに聞いてみると、当然と言った様子で答える。
「わーからん。十キロ以内とかなら魔力で分かるけどな。あ、最強なオレ様だからその範囲なのであってクソザコ魔人どもは五キロがせいぜいだからなっ。んで、アイツらヘコまして歩くんならまず西に行こうぜ」
「西? 西に何かあるの?」
エイルが首を傾げる。西には森林王国ツォルキンが広がっているが、名前の通り薄暗い森が国中に広がっており魔人をこちらから探すのは大変に思えるのだ。
「あそこはオレ様と同時期に生まれた吸血鬼型の魔人が棲んでるのよ。ケッ、あのクソアマはオレ様が名前に悩んでる間に周囲の魔物を従えちまいやがって、仕方なくオレ様が少し北の山脈まで移住してやったのよ。なのにオレ様を負け犬呼ばわりしやがって、ゲヘヘ、まずはアイツからブチ殺してやるぜぇぇ」
ゲヒャルトが気炎を上げるのをポカンと見る一同。どうやら魔人同士でも仲はあまりよくないらしい。この調子では、管理職の魔王は胃痛持ちかもしれないなとユウキが平和な事を考える。
しかし、ユウキはふと今のセリフを頭の中で反芻して嫌な汗が出る。
そう、ゲヒャルトは吸血鬼をクソアマと称した。聞きなれない蔑称にスルーしかけていたが、それは女性に対する言葉だろう。
「ゲヒャルト、その、もしかしてその吸血鬼というのは……女の人なのか?」
「あん? なんだそういえば女の子に暴力を振るうのは嫌なんだっけか? 大丈夫だオレ様みたいな美少女なら心も痛むだろうが、あのブスは殺してもスッキリするだけだぜ。ゲヘヘゲヘヘヘ」
「え、いや、ちょっと見た目の問題じゃないかなと……」
爛々と目を輝かすゲヒャルトにドン引きするユウキ。どうやら次の相手も一筋縄ではいかないらしい。
一同は無駄に過酷な先行きを思い、顔を曇らせたのだった。
最終回が近くなった頃に活動報告あたりで残念なヒロイン人気投票を行います。その結果で一番人気な残念ヒロインをメインヒロインに据える予定です。
フライングで感想欄に好きなキャラを書いてくださると、小躍りして喜びながらそのキャラのエピソードを増やすかもしれません。