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伝説の武器

 王城の宝物庫には各国から送られてきた魔法の装備が、ところ(せま)しと並べられている。これらは全て完璧に管理されており、勇者が必要な物を得た後は次の勇者が現れるまでここに保管される。

 そうして、有事の際に次の勇者を呼び出す国に輸送されて受け継がれていく。

 女王は多忙(たぼう)なため執務に戻り、ユウキは現在エイルとアンジュに先導されている。ユウキにとっては広い城内は迷路のようなものなのだが、幼少よりずっと王城で暮らしている二人には目を(つぶ)っていても歩き回れる場所だ。


「魔法の武具は使い手を選びます。勇者さまには使える装備全ての使用が許可されているので、一通り手に取ってみるのがよいでしょう」


 警備兵に会釈(えしゃく)をしてアンジュが宝物庫の扉を(くぐ)る。それに続いてユウキ。そして彼の視界に入らないように気遣(きづか)いながらエイルが続く。

 エイルが見せるこの細やかな気配りが、ますます男性から理想の嫁として見られる原因になっているとは知らない。少なくともこの三人は、知らない。

 ユウキは導かれるままに次々と武具に触れていくが、どれも(こば)むような重さを伝えてくるばかりで振り回せるような軽さではない。

 使い手を選ぶ武具たちではあるが、本来は魔力の高い勇者ならばより取り見取りだ。少なくてもかつての事例を記した文献(ぶんけん)ではそうだった。

 次第に顔色が優れない様子になる二人と、それを察して自分にやはり価値などないのではないかと悩み始めるユウキ。そして、ついに宝物庫の最奥(さいおう)へとたどり着く一行。


「これで最後ですが、これを勇者が使えたなどという記録は無かったんじゃありませんでしたっけ?」


 エイルが困ったように言う。エイルから見てユウキの魔力というのは、伝説に聞く勇者のそれより(すさ)まじい輝きを放っていた。だというのに、何故どの武具もユウキに力を貸さないのかと困惑してしまう。

 そして、最奥(さいおう)に飾られている槍こそが、創世記に記された創造神の槍である。

 ユウキは(なか)ば諦めつつも、その槍を掴み持ち上げる。それは意外な軽さで手に吸いつくように馴染んだ。槍などという物を握るのは初めてだが、彼には何故か使い方が分かるような気がして軽く取り回してみる。

 鋭く空気を裂く音。この狭い空間で二メートルはあろう槍を振り回しているのに、不思議と周囲のものにぶつける事もない。手足よりも繊細な神経が通っているような気がする。


「これは……?」


 呆然として誰ともなく問うユウキ。


「それは――」

「――それは創造神さまがこの世界を作られた時に使った道具。魔槍クッコロッセ」


 説明しようとしたアンジュを(さえぎ)るように響く声。咄嗟(とっさ)に一同が振り向けば、入口から歩み寄ってくるのは一人の女。

 清潔な白いローブとハーフアップに結い上げた青髪の描くコントラストが目を引く。整った顔立ちと穏やかに細められている目元は優しげで包容力を感じさせる。十八歳でありながら母性を感じさせるのは、表情のみならず豊満な胸もあってのことかもしれない。

 彼女こそが女王の妹にして七つ年上の姉と並ぶ実力を持つ魔法使い――サラ・ウルズラグだった。

 その眼差しを受けて、ユウキは既視感(きしかん)を覚える。そして体が(すく)む。エイルが心配げに肩を叩くが、反応も出来ない。


「サラ様。ユウキは女性が苦手なのです。お(とも)の魔法使いはデマジオ殿が来られるのではありませんでしたか?」

「そうなのですよぉ。困りましたわ。デマジオ様は御歳が御歳でしょう? やはり此度(こたび)の冒険には不安が多いという事でしたので、(わたくし)が代わりに来た次第です」


 アンジュがやや警戒したように問えば、サラはおっとりとした様子で返す。しかし、その視線はユウキを値踏(ねぶ)みするように()める。

 一度、服を脱がされそうになったことがあるアンジュ以外の多くは知らない事だが、サラには困った悪癖がある。彼女は昔から美しい少年の貞操に執心な、いわゆるビッチという性質(たち)であった。

 清楚な見た目から男性に人気がある彼女は、それを自覚しながら天然のフリをして美少年を(もてあそ)ぶ。そして、一度関係を持った後は身分の違いを盾に、悲しげに口止めをしてから身を引くのだ。

 おかげで被害者の数は知れないが、勘の良い者だけはソレに気付いている。


「勇者ユウキ様でしたね。ご紹介が遅れました、(わたくし)は魔法使いのサラと申します。どうか、お嫌かとは思いますが(わたくし)も国を(うれ)う身。どうかご一緒させてくださいませ(ああ、なんと可愛らしいのかしら。女の人生を狂わせるほどの器量ね。女が怖いなんて言っているけど、私が目を覚まさせてあげるわ)」


 ユウキは見詰められて既視感(きしかん)の正体に気付く。


「お姉さん……。いや、違う。……すっ、すみません。ぼんやりしていました! その、力を貸してくれるのは嬉しいです。ただ、女性が苦手なので距離を取ってしまいますが。えっと、俺は別に嫌っているとかそういうのではないので、ごめんなさい。とにかくよろしくお願いします」


 上手く回らない頭を必死に回転させて、ユウキは既視感(きしかん)を振り払う。自分が生き残るにはきっと彼女たちの力も必要で、こうやって選ばれたからには女性といえども優秀な人なのだろうと考える。

 まさかその相手が自分の貞操を狙って舌なめずりしているとは夢にも思わない。いや、本能的に察して夢に見ることはあるかもしれない。なにせ彼女の向ける目は、ユウキが忘れようとしている例の一週間でお姉さんに向けられていた眼に近いからだ。

 女性とのお付き合いなど(えん)がなかったエイルは特に気付かず、アンジュはユウキが言うならと一応は引き下がる。

 こうして、サラは勇者の(とも)として正式に認められた。

 彼女は上機嫌で説明を始める。


天地開闢(てんちかいびゃく)の時、光神ルミノスが荒ぶる闇神シベルスの腹にクッコロッセを突き立て、そこから流れた血が大地となり涙は空になったと伝わっています。その後、悔い改めたシベルスがルミノスの妻となり、二柱は世界を今でも見守っているのだとか。その槍は、ルミノスが世界に(のこ)し、使えた人間は一人もいないと聞きます。さすがユウキ様、まさに貴方こそが真の勇者です」


 この神話は子どもでも知っている話だが、サラは違うと思う。この槍の持つ力の性質を優れた魔法使いであるサラは感じ取れるからこそ、裏を勘ぐらずにいられない。


「この槍は打ち倒した相手を屈服(くっぷく)させる魔力が働いています。(わたくし)の他に魔法解析に成功した者がいないので使ってみるまで確証は持てませんが、おそらくその力は強大でしょう。きっとユウキ様は魔王に打ち勝てますわ!」


 そう、他者を屈服(くっぷく)させる魔法。つまり、光神は闇神をこれで打ち倒し、腹にご自慢の槍を突っ込んで世界を産ませたのだという。なんともひどい話ねとサラは内心で(わら)う。

 ユウキもそれを聞いて何となく嫌な予感がする。屈服させる、クッコロッセ……唐突に繋がった線に顔を(しか)めて思わず叫んでしまう。


「ふざけるな、『くっ殺せ』じゃないだろ! その神様ぜったいネーミングセンス、いや頭おかしいぞ!」

「あらあら、まあまあ、いけませんわユウキ様。どうなされたのですか?」


 急に取り乱したユウキにどさくさで近付くサラ。すると(またた)く間に顔色が悪くなって、彼はさらに錯乱(さくらん)する。


「あ、来るな、女は……ぁぁぁごめんなさい許して嫌だ嫌だ嫌だ近づかないでぇ」

「ああ、ごめんなさいユウキ様。ですが(わたくし)は心配で心配で」

「サラ様、そう言いながら触れては逆効果ですよ。一度離れてください」

「それ以上いけません!」


 こうして勇者は神話の魔槍を(たずさ)え旅に出る。ここから歴代最強の勇者、ユウキの英雄譚が始まる。しかし、彼はまだ知らない。待ち受ける女性はお(とも)だけとは限らないのだと。

残念なヒロインその三、清純派ビッチ。

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