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勇者な俺と聖女さま御一行?

「くぅ、我ら双子をここまで追い詰めるとは勇者どもめ……」

「観念しろ魔人……ん、双子?」


 大斧で片腕を吹き飛ばされた色白な少年が、息を乱して呪詛の言葉を吐いている。

 倒すのが遅くなった魔人ほど強いのは、魔王の祝福を受けて時間が経てば経つほど魔力を蓄えられるかららしい。

 おかげで最近は魔人との戦闘はかなり苦戦を強いられている。従える魔物の量も増加の一途を辿っているし、魔人が時間をかけて策を用意している場合もある。

 それでもユウキたち勇者一行は死線を潜り抜けて成長を続けている。決して魔人に後れを取ることは無い。

 それに魔王の祝福で増大する力も限界がある。それは魔人が生まれつき知っている当然の知識で、ユウキも仲間になったゲヒャルトやクリスティーナから聞いて知っている。

 どうやらすでに限界まで成長しているが故の苦戦だ。ともあれ魔人たちは魔王以外に従わず協調性もないので、二人以上と同時に戦う事がないのは人間にとっては希望だろう。

 そして現在、勇者さま御一行は雪原の国ホワイトレインにてついにひとりの魔人を追い詰めていた。どうやら冷気を操る魔法が得意らしく、気候と相まって近付くのですら困難な敵であった。

 一メートル先も見通せぬ猛吹雪に体力を奪われながら、魔物のゲリラ戦法を受けて疲労していく。そんな時に珍しく大人しかったゲヒャルトが『見つけたぁぁぁぁっ! あの腐れ雪ダルマ、シロップかけて食い散らかしてやるぜぇぇぇっ!?』と叫んでダバダバと走り出したので、ユウキが慌てて追いかけた結果がこの光景である。

 言動や種族で誤解されがちだが、ゲヒャルトの得意分野は感知である。どれほど得意かというと魔王の祝福無しでありながら現在の全魔人中一番である。

 ともあれ、ユウキはゲヒャルトに不意打ちで腕を奪われたであろう魔人の少年に槍を突き付けて聞き返す。双子という事はどこかにもう一人いるはずだ、と冷静に警戒する。


「とぼけているつもりか? 僕としたことが視界を奪ったつもりで、感知能力の上回っている存在が二人もいたとはね。兄さんはお前らの別動隊に足止めされて間に合いそうにないな……せめてそこのミノタウロスを道連れにして兄さんが逃げる時間を稼がせてもらうぞ!」

「うっせぇぞコラぁ! 寒いから今すぐ吹雪を止めないと温厚なオレ様でも殴るぞ!?」


 もう殴るどころか大斧で腕を吹っ飛ばしちゃっているんですが、とはさすがにユウキもツッコミたくなかった。なのでどうやら近接戦に弱いのであろう魔人に一瞬で近付く。


「とにかく眠っていてもらうぞっ」

「バカなっ!? 速いだと、人間ごときがぁぁっ!」


 槍の石突が少年の鳩尾(みぞおち)(えぐ)り、苦悶の声が上がる。ユウキはそのまま魔力を流し込みクッコロッセを起動する。

 微かな抵抗を感じて素早く掌底で顎を打ち抜き、ゲヒャルトも呼応して背中に回し蹴りを叩き込む。少年から力が抜けて、魔槍の力が注ぎ込まれる。


「ちっ、ユウキの優しさに感謝しろよぉ? オレ様だったら腰を振ること以外考えられない玩具に仕立てて広場に晒してるところだぜ。げひゃひゃはひゅ……ごぼっ、げほげほっ寒ぅぅぅぅ」

「魔人が頑丈だからってもうちょっと厚着した方がいいだろ。……ほら」


 ユウキは聞こえなかったフリをして少年が倒れた姿を見届けてから、ゲヒャルトに自分の防寒着を着せる。自分の寒さは体の周囲に小さく炎を浮かべて凌ぐ。

 あまりに自然な動きだったので反応できなかったゲヒャルトが、下品な笑いを引っ込めて幸せそうに微笑む。寒くてもファッションを貫く乙女心が、意中の男性から気遣われる幸せで引っ込む。

 ユウキも思わず見とれてしまう可憐な笑顔だったが、状況を思い出して声を上げる。


「そういえば、もう一人は別働隊と戦っているって言ってたけど、皆のことだとしたら急いで戻らなきゃ」

「んぅぅ? ぐへへぇ、違うよぉ? 何か五人ぐらいの知らない奴らが戦ってるぜ」


 ゲヒャルトが甘えたような声で言うと、ユウキは首を捻る。


「そっちは危なくないのか?」

「げぺ? あー、大丈夫じゃねえかなぁ。ひとりユウキくらい魔力のヤバイのがいるし」

「それって……」

「勇者ちゃんじゃねぇか? もうひとり召喚されてるっていう」


 ユウキは敵が二人の時に運よくブッキングした事を感謝しつつ、どちらにせよ援護しておいた方がいいと判断してゲヒャルトを見つめる。


「ごめん、案内してくれるか? 魔人相手だとやっぱり不安だ」

「げへへ、分かってるって、オレ様はユウキのためなら何でもしてやるから頼っていいぜぇ。ぐふふ」


 笑いながら答えるゲヒャルトに先導されてユウキが走り出す。そして数分で雪が融けかけている地帯に辿り着く。そして視界を遮る雪すら水へと変える炎の魔人が、一キロ先で圧倒的な存在感を放っていた。

 そしてそれと対峙しているのは剣士と魔法使い、魔法剣士に暗殺者という雰囲気の男たち。そしてその背後で守られながら必死に援護をする治癒術師の少女。

 ゲヒャルトが、あーと声を上げる。


「駆けつけて正解だぜユウキ。勇者ちゃん自身は攻撃手段無いんだなアレは。仲間を強化して回復も遠距離発動とか意味不明なスペックだけどよぉ、前衛が人間の精鋭程度じゃなぁ? げひゃ、せめてアンジュくらいの前衛だったら勝てたんだろうけど」


 ゲヒャルトの感知は出会った当初よりかなり成長して、すでに恐ろしい精度に達している。本人としてはこれも愛の成せる業なのでユウキが近くに居ないと使えないという欠点がある。正確にはユウキ以外に教える気もないだけである。


「状況は理解した。今なら不意を突けるな」


 ユウキが駆けだし、旋風を纏って突き出された刺突が魔人を覆う炎を吹き飛ばす。硬質な音と共に炎で槍が押し戻されたが、肝心の炎は一撃で吹き飛んだので間髪入れずに横薙ぎの殴打で胴を打つ。

 背後からの連撃に魔人は反応できず、ぐらりと体勢が傾く。


「今だっ! やっちまえ!」


 治癒術師の少女が可愛らしい声で叫べば、突然の乱入に驚いていた四人の男たちも即座に攻撃に加わり、魔人を袋叩きにする。

 ユウキは頃合いを見て魔人から気力が失われたところで拾い上げてクッコロッセで魔力を注ぐ。


「これでこの魔人は生まれ変わった。もう大丈夫だ」

「もしや神槍クッコロッセか! すると貴方は噂に聞くウルズラグで召喚された勇者殿か、助太刀感謝する」


 金髪に甘いマスク、いかにも王子さまといった雰囲気の剣士が笑顔で礼を述べる。

 ユウキは話が早くて助かると頷いて、一同を見渡しながら自己紹介をする。


「ああ、俺は勇者ユウキだ。貴方たちはカルカソニアの勇者一行か。ともかく無事でよかった」

「ありがとう、私はカルカソニア第二王子――」

「――ユウキ!? 姫ちゃん? マジか!? 助けて姫ちゃーーん!」


 急に治癒術師の少女が自己紹介に割り込んで叫ぶ。ユウキはギョッとしてその顔を見返す。黒髪黒目で控えめだが整った顔立ちの少女は、美しいと言うよりは可愛らしいといった様子である。年の頃は十三歳くらいか。今はその瞳に涙を溜めてユウキに駆け寄ると抱き着いてきた。

 初対面の女性なのにユウキは何故か何の抵抗も感じずに首を傾げる。未だに仲間たちにさえ構えてしまう時があるというのに、この少女はあっさりと腰に抱き着いて、あまつさえユウキのお腹に顔を埋める。

 その動作に驚いたのは剣士たちも同様で、慌てだす。


「聖女さま!? いったい何をされているのですかっ?」

「君は――」


 誰かと聞こうとして、ふとユウキは少女の言葉を思い出す。

 姫ちゃん。

 姫野(ひめの) 優生(ゆうき)をそう呼んだのは二つの世界を合わせてもたったひとり。

 とっさに少女の腕をそっと引きはがして顔を覗き込めば、どこかで見た面影。涙に濡れて光る瞳と艶やかな桃色の頬、ユウキを信頼しきっている表情。

 それはユウキの親友――内藤(ないとう) (ひじり)。十七歳オタク男子の変わり果てた姿だった。

ラスト残念なヒロイン。TS親友。

元の世界では「内藤」「姫ちゃん」と呼び合っていて中学時代は腐女子から人気の二人でした。ナイトウ→ナイト 聖騎士と姫君の薄い本が漫研で年に一冊発行されるくらい。

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