1.雪原の果ては死者の王国
この作品をハワードとアズサに捧げます。
受け取り拒否してもクロムやヤーンを通じて必ず捧げます。受け取れやゴラァ!
北方の最果てにある雪原の彼方、そこに死者の国といわれるザウロニアが存在する。この永久凍土に閉ざされた辺境の国では、世界で唯一、死 の女神ナウレイアを信仰することが許されている。
死の女神は地の底にあるという冥界を治める死の女王で、神々で最も美しいとされる教養神に次ぐ美貌の持ち主だという。
その美は衰えることをしらず、永久不変や、北西の北方辺境永久凍土を現していると後世の神学者は考察する。
この北方の辺境にあるザウロニアでのみ信仰される死の女神は、神話や伝承において、自身の弟である知恵の神、従弟の軍神という神々と、夫である教養神が前妻達の間に作った連れ子達を、自分の子供達と別け隔てなく公平に扱うので、死は誰にでも平等に訪れることを表している。
しかし、死者の女王と呼称されるからといって、死の誘い手という側面ばかりだけではなく、夫を失った儀礼神の嘆きに、ともに涙し、儀礼神の夫である司法神を生き返らせた伝説があり、救いようの無い怪我や大病を患った者が助かるように、密かに願をかける風習も広く民間に残っている。
また、婚約者の教養神が他の女神へ奔り、一向に自分の元に戻らないので、一緒になれるように願う恋の女神として。
または、教養神が死んで、結局、死の女神と結ばれたことを、彼女の住む冥界へ来るように呪ったと解釈し、気に入らない相手を呪い殺す風習もあるので、ザウロニア国外で表立って信仰する者はいない。
命の危機が迫る者が身近にいて、命存えるように慈悲を願い祈っても、見つかれば、時と場合によっては呪殺とみなされて犯罪者として扱かわれてしまうからだ。
結婚が人生の墓場といわれるのも、この二人の結婚が由来なのは言うまでもない。
年に一度休み、教養神に伴われ地上に息抜きに出て来るという。その時だけは、固く閉ざされた冥界の門が開き、死の女神と供に死者も、生前、縁深かった所へ帰ってくるという。
その後、死の女神と供に帰らなかった不心得者達が不死者の始まりとも言われる。死の女神の信者達は人知れず不死者を安息させ、その彷徨える御魂を、北の彼方へと回帰させる旅を続けている。
この御魂の行き先である北方辺境に位置する国、ザウロニアには死の女神の生まれ変わりが、世に産み落とされるという言い伝えがある。
女王の死後、数年の間に、この国の風土を象徴した存在として相応しい、神々しくも穢れない白色の髪と肌に、その者が青白い幽鬼ではなく、神の生まれ変わりとして生きる者であることを証明する生命燃えたぎる赤き瞳もって、ザウロニアの何処かに母胎を借りて降臨するという。
大神官によって見出された、その娘はイリスとなづけられ、この国の女王となることを運命づけられている。
他の神を信仰する者でも、自分の死後は、この死の女神の生まれ変わりが治める死者の王国に埋葬されることを望む者が多い。
女王の元へ埋葬さることを望む者は、死後、各地にある大使館も兼ねる分神殿に遺体を納める。
そこで元の棺から、防腐と盗掘者対策などが施されている特殊な正方形の棺に遺体を前屈姿勢で納め、年に一度の女王の来訪とともに行われる巡礼祭という、死者の旅立ちの儀式を待つ。
儀式を終えた後、近衛兵に守られながら、女王とともに多数の死せる巡礼者達が、終焉の地ザウロニアへと旅立つのだ。
だが、まさか神の生まれ変わりといわれ、人智の及ばぬ功力に通じた女王も、己が、これから来訪せんとする地において、身内ともいえる者共から、今、まさに物言わぬ参列者が出ようとしていたとは思いも寄らなかったのではないだろうか?