第2話 幼少期 女の子でも大丈夫!
あれから数年が経った。
どうやら輪廻というものは本当にあったらしい。私今川義元は南蛮の大名の子として生まれたのだ。名は おどれい・ふらんどる と言うらしい。変わった名前である。
南蛮…というより、人の見た目や建物の構造といい、中華でもなく日の本とは全く異なり、どちらかというと南蛮もとい西の果ての国のものである。
そして、親がどうも大名あるいはそれに準ずる武将であることがわかっている。
しかしながらなによりも衝撃的であったのは私が女である事と、次女である事がわかった。
なんたる事か。女ではもはや立志すらできぬではないか…と嘆くも、杞憂であった。どうやら女が君主や武将が珍しくない国らしく、しかしされど私の身分は次女であり、やはり家督を狙うには遠かった。
輪廻後のこの人生は静かに尼として人生を全うするのも悪くはないかも知れない。
が、本当にそれでいいのだろうか?
何故私は輪廻で生まれ変わった?何故私は前世の記憶を引き継いだ状態で生まれてきたのか。
何か意味があるのだろうか。ただ無意味に尼をさせるために生まれ変わったのだろうか。
だが、当主の座を望めば下克上…姉を倒さなければならない。そうなれば、前世と同じようになるであろう。それで本当にいいのだろうか。
いずれにせよ、今の私はやっと書物を読むことができ、喋られるようになったばかりである。当主を狙うも尼となるのも、まずはこの世界を知らねばなるまい。
「ははうえー。ここはなんという ちめい なのですかー」
「あらあらオドレイはもうそんな事を知りたがるのですね。ここはオーランスのニーダー地方のブルージュという街なのですよ。」
「ぶるーじゅ?」
「ええ、川を利用した美しさと守りやすい所で、私達フランドル家を支える街なんですよ」
「へーそうなんだー」
「さ、可愛いオドレイ。もう遅いので寝ましょうか」
「はーい」
こうして、オドレイは寝室へとお付のメイド達と共に入っていく。
その様子を見て、一人の中年の男性がオドレイの母に寄り添うように近づく。
「オドレイの様子は?」
「あの子、大変頭がいいわ。ここがどこなのか知ろうとしていたわ」
「まさか。多分わかってないと思うぞ」
父は静かに笑う。
「いいえ、この前だって難しい本を引っ張って来て字を教えてくれと頼んできたわ」
「なんだって?そうか…しかし、あの子は次女だ。アデライトを当主にするのは変わりはないんだぞ」
「でも、せめて彼女が望む学問を教えてください」
母のその言葉に、父はううむと悩む。
「…わかったよ。大学から家庭教師を呼ぼう。時期となれば大学へも行かせる…だが、卒業後は教会に行かせる。それでいいだろうか?」
「ええ、でもその前に貴方が死んでしまうかもしれないわ」
「おいおい、怖い事を言うな」
ハハハと笑う父であるが、母の目は真面目そのものであった。
「いえ、冗談は抜きに話しています。きっとあの子は将来騎士として名を残すでしょう…いえ、フランドル家を継ぐでしょう」
「まさか。オドレイは教会で花嫁修業をして、どこかへ嫁がせるさ。当主はアデライトに決まっているんだ」
真面目な母を横に、父はかぶりを振って笑う。
こうして夜は更けていった。
ファンタジー特有の女の子でも生まれさえ良いなら騎士や王様になれるご都合主義な世界です。
オークや怪しげな魔術師を一人で退治しに行ってはいけない(戒め)
義元さん、四男で兄が3人ぐらいいましたが、長男と次男が相次いで死んで、三男と家督争いで殺しちゃった過去があります。