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第12話 森の中の戦い

今回は戦闘アリです。長いです。

 「オドレイ。そのロングボウ引けるのか?」

 「うむ、やってみたが、引けたぞ」

 「まじか、五歳児半端ねぇ」

オドレイとマルストフ。二人は同じ馬に乗って笑い合う。


ブルージュ近郊。近くの森へ行く道を10を数える騎馬が歩く。

 その騎馬に付いて行く従者や兵達も入れて30人を超える団体が道を歩いている。

周辺には畑はなく、草が生い茂るばかりであった。


そんな団体の中、マルストフとオドレイは同じ馬に乗り、オドレイはマルストフに捕まる形で乗馬している。二人乗りである。


 他の騎馬は皆マルストフの兵および配下の者となっているが、彼らの場合マルストフの人間性に惹かれて仲間となっている戦士達といった感じである。

 彼らの仲間内で、傭兵になる事をやめるという旨を伝えたが、それでひと騒動あり50人居た同士が40人程に減少する程度であったが、それは別の話である。


 今はその騒動を乗り越えた状態である為、結束力は高い。


 「あっちはあっちで楽しんでるみたいだねぇ」

 「そうですね」

 その光景を、クラリエルとマルストフの右腕と言われる人物、フェルヴェ・ブロワが微笑ましい感じに言い合う。

 本来、戦争や狩りの時、従者は騎士である主人の荷物持ちであり、馬には乗れない。現にマルストフの

だがクラリエルは五歳なので、特別に二人乗りであるが乗せてもらっているのである。

 「それにしても…大変じゃない? 2・3日おきに水浴びしてるみたいだけど…」

やさ男なフェルヴェが尋ねる。

 「いえ? 別にそれ程では?」

事もなげに言うクラリエル。その声は「なんでそんな事聞くの?」と言わんばかりの口ぶりであった。

 「あ、そう。なんだ…」

意外そうに、しかし何かを受け入れる口調でフェルヴェは言う。

 「ほら、ルスールとかさ。見てると大変そうだったからさ…」

次第に「なんでそんなくだらない事聞くんですか?」と言いたげな視線を背中で察知して、慌ててでっち上げた理由を述べる。


 クラリエルの視線は、色々と道具や荷物を持たされた従者ルスールの姿に映る。

 「従者は大体ああいうタイプだけど、君の場合はああいうのじゃないね。…どっちかと言うと本当の姉妹のように接しているように見えるよ」

 「姉妹だんて…そんなぁ…」

クラリエルは顔を赤らめて言う。謙虚に否定しているように見えて、まんざらでもないどころか嬉しがっているようである。

 「(そう…実の姉が妹に接しているのにも関わらず、彼女は妹分を作っている…自分も姉のようになりたいのか? …それとも)」

 フェルブは、まさか5歳児同士で一線を超えているとは夢にも思わず、思考を巡らす。

 「(いや、考えても始まらない。か」

フェルブ・ブロワ。マルストフに足りない知力・智謀を担当する右腕的存在であった。


………

……


 「で、オドレイ嬢。探し物ってなんだよ?」

 「いや、それがの。本で見たんだがの。<甘い汁が出る蔦>があるらしいんじゃ」

 狩り場となる森へ到着し、獲物狩りを開始して数時間。それなりの成果を上げて満足げにしてたが、ふと用事を思い出し、「探し物があったのじゃ」と言って奥へと進んだ。

 マルストフの部下達も乗り気で、護衛も兼ねて全員来てくれた。

無論、従者達は馬の番であるが、クラリエルだけはオドレイとともに一緒にきている。

 

 「甘い汁ぅ~?」

マルストフは胡散臭げに言う。

 「んなもんある訳ねぇだろ」

 「いや、本当に書いてあったんじゃ。本当じゃよ?」

オドレイは真面目に言う。


 「(まさかこの世にも甘葛あまづらが存在するとは)」

 オドレイ、もとい義元はそう思案していた。


いつぞやの日で見つけた本の中に、そのような記述があったのは僥倖か。

 そもそも甘葛あまづらというものは、秋頃の赤くなっている木にくっついているつたを切り取り、蔦に息を吹き込んで出てくる液体を煮飛ばしてつくる甘味料である。

 息を吹き込む作業が大変ということから、日の本でも中華からの貿易で砂糖が入り始めると、京等の畿内では使われなくなったと聞くが…。それでも私は口にする事が何度かあった。

 書物には「森が深い所にある紅葉の木にある紫色の蔦があり、それは甘い香りを放っており、切り取ったその蔦を皮を削ぎ、煮詰めると出てくる濁りを汲み取り、さらに煮飛ばすと極上の甘美となる」と書かれていた。

 にわかには信じ難いが、試しに探してみるのも一興か。

 書物自体が古めかしいものであり、かつこのマルストフの言いようからして有名でない以上、あまりアテにはできない。


 「……甘い汁……か」

フェルブが腕を組んで考え込む仕草をする。

 「確かに……言われてみれば、毎年ここ辺り……」

マルストフの部下達もざわざわと話し合う。

 「……確かに、秋になると森の近くから甘ったるい匂いがするんだ。銀杏とは違った匂いだが……」

フェルブはそう思い出したように言う。

 「ああ、それで森に魔物が出没しやすいんだ。魔物も冬支度をしてるから……」

部下達も続けてそう言う。


 魔物か、豚や小鬼といった妖怪の類が存在するとは聞いていたが、奴らも冬越えの支度をするのか。

っと関心してる場合ではない。

 いささか危険ではあるが、幸いマルストフ達も探索に乗り気であるし、危惧もしていないので、探索を続けることとした。


 油断して討てれるのも面白くはない。絶えず警戒を続けての探索が始まる。


しばらく、森を歩いたその時であった。

 「全体止まれ」

私は土のめくれる匂いとなんとも言えない臭い匂いを察知し、そう言って部隊を止める。

 「なにやら臭う」

マルストフが何か言おうとするが、その前に背負っていた大弓を取り出しながら静かに言う。

 「この臭い。ゴブリンか?」

私の声に、マルストフはそう言って身を屈める。

 マルストフの部下達も全員身を屈め、息を潜める。

 「だろうね。そろそろ魔物が出てきてもおかしくない距離だ」

やさ顔のフェルブという若騎士が言う。

 「ふむ、注意して進むべきかの?」

 「だな」

私の提案にマルストフはうなづく。


 こうして、我々数十人は身を屈めた状態で前進する。


 「お前のロングボウ。かなり目立つぞ」

マルストフが若干笑みを浮かべて言う。

 確かに、日の本の大弓は武威を知らしめるもので、上部に反りが入っている。故にこういう隠密行動には不向きではあるが……。

 そもそも、この大弓、我ながらよくできたものである。模擬刀や箸、櫛制作で調子に乗って作っては見たが、なかなか良いものである。材料が竹ではないのでいささか勝手が違うが、今日に至るまで訓練は続けているので問題なく引ける。

 だが、やはり我が肉体はどういう訳か<大人の力>を出せるようである。妙だとは前々から思ってはいたが……これも転生の影響か? まずそう考えて問題はないようだが。


 と、そう思案して進むと眼前には緑の子鬼が10匹ぐらい、木に向かって何かをしているではないか。

 木には紫の蔦が巻かれている。あれこそが書物に書かれていた甘い汁が出る蔦か!?


 「ゴブリンがたかってるな…」

 「まさか魔物があの木に群れてるだなんて初めて知った…」

マルストフやフェルブは口々にいう。フェルブにしては「なんで今まで誰も気付かなかったんだ?」と言っている。


 「おい、マルストフ。殺るか? 奴らは10匹前後。殺って殺れない事はないぞ」

マルストフの部下の一人が剣を抜いて言う。他の部下達も皆襲いかかる気満々である。

 「つってもこっちはガキがいるんだぞ。どうするお嬢。逃げるなら今のうちだぜ」

マルストフは私とクラリエルを見る。気遣いは嬉しいが、いらぬお世話だ。


 「この大弓。ただの飾りではない所を見せてやらねばの」

 と持ってきた自作した矢をつがえる。まだ完璧ではないものの、とりあえず練習時にはしっかりと飛ぶ物を選んで持ってきている。

 「おいおい…殺る気満々だな…クラリエルは?」

 マルストフは小さく笑いクラリエルを見る。

 「え、わ、私ですか?」

震える緑の小さき幼子がそこには居た。

 「クラリエルは私と一緒におるがいい」

 「だと。よし。じゃあ弓とボウガン持ってる奴はここにいて援護しろ。あー……フェルブ。お前は二人選んで違う方向から攻めてくれ。火の魔法は使うなよ?燃えると厄介だ。5分したらこちらから攻撃する」

 マルストフは私の指示が終わると、部下たちに作戦を伝える。

フェルブはうなづいて二人連れて場所を移動する。


 そして、5分、待つこととなった。


さて、その間私は周囲を観察する事とする。

 ゴブリンと言われる子鬼達は13匹。いずれも腰ミノと粗末な鎧や服を纏い、ゴブゴブという鳴き声なのか息遣いなのかわからない声を上げている。

 顔はまさに鬼と言える形相で、手には棍棒に石をはめこんだものや、斧や剣を装備している。弓等の類はなく、大将と思われる兜を被った大柄な鬼がゴブゴブと指示らしき何かを言っているのが確認できる。

 そして指示を受けた子鬼達はお互い肩車をして、木に絡んでいる蔦を伐採しようとするが、肩車のバランスが悪く、すぐに崩れてしまう。その都度兜の鬼が叱責の鳴き声を上げている。


 日の本の鬼は、嘘が付けぬが万力でもって人間を苦しめるというが、こちらの鬼はなにやら知能が低いように見える。


 「ああ見えても、数で攻められて滅ぼされた村がいくつもあるんだ。それで男は殺されて女は子供を産ませられるんだ」

 マルストフはそう語る。その目は幾多の戦場を経験した武人の目であった。


 このマルストフという若武者は、頭の方は馬鹿という文字がよく似合うが、どうやらそれは誤りのようだ。こやつは戦馬鹿。こやつは鹿ですら戦馬として使うやも知れぬ。


 「さて…そろそろか?おい、お嬢、怖いか?」

マルストフが尋ねる。

 「いや。それがどうしたかの?」

ハッタリを言って見る。

 「へん。その大弓の威力。試してみてみろ。最初の一撃はお前にやる。そしたら俺たちが攻撃を開始してやる」

 マルストフはそれがハッタリだと見抜いたように笑い飛ばし、初撃は譲る事を宣言する。

 戦特有の緊張感の中、5分というこの世界の時間の単位の間、ずっと待機していた訳なので、初撃を譲られても中々喜べない。

 それでも、転生した際の影響で、精神や身体能力は受け継いだ状態なので、まだ耐えられる状態であった。クラリエルなんかもう震えて今にも泣き出しそうである。


 クラリエルの頭を撫でたい気持ちを押さえ込み、私は右膝を前方について、大弓を引き絞る。


 狙うは大将の首。兜と鎧の隙間を狙う!


………

……

 瞬間、矢は、確かにゴブリンリーダーに命中した。

 「やった!?」

 クラリエルが悲鳴にも似た声をあげる。彼女の精神は魔物の群れを見た時から既に極限の域に達していた。

 「いや、肉に阻まれてダメだ!」

マルストフはそう言う間に、マルストフの部下達の弓攻撃が始まる。

 あるものは弓を、またある者はボウガンを。


 突然の襲撃に、ゴブリン達は悲鳴にも似た鳴き声を木霊させる。

 「すぐに終わらせる!いくぞ!」

マルストフはそう叫んで飛び出す。

 その姿に、5・6人の部下が抜剣して飛び出す。中にはボウガンを打ち捨てて飛び出す者もいる。


 ボウガン。それは弓術という高等技術を学んでなくても巻きさえすれば誰でも、それこそ徴兵された農民ですら扱える武器である。

 オドレイもその武器を「弩」として認識はしていたが、初めて見る武器であった。それというのも戦国時代の日本は既に武士の時代により、弓は武威を知らしめるものであり、そして弩を制作する手間を考えると、日本の木や竹は弓に向いており、弓が主流であったからである。

 それに、ボウガン(弩)は一度発射されると矢をはめ込んで、つがえる為に巻かねばならず、連射ができないものであった。


 故に打ち捨てて抜剣したのである。


最初の矢により、混乱したのを期に、終始マルストフ勢が優勢であった。

 フェルブ率いる別動部隊の活躍により、その場に居たゴブリンは全員討ち取られ、その骸を晒していく。


 「おりゃぁ!」

マルストフはゴブリンリーダーに重い一撃を食らわせる。

 リーダーは初撃の弓こそその太い体によって死なずに済んだが、それでもダメージはあり、そこにマルストフとの戦いである。

 二・三撃を打ち合うが、矢を受けている為、本来の力が出ずに打ち負けてしまう。そこに重い一撃である。

 ゴブリンリーダーは仲間達とともに無残に骸を晒す事となったのであった。

見てくれてありがとうございます!


次回は回収と販売タイムです。

厳しいかもですが、10日までには投下したいと思います。

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