第6話 4月24日 15:40 美笠高等学校 格技場①
さあ!前回の最後に登場した謎の美少女の正体はいかに!!!
……そんなこと言われるまでもない?それは失礼しました。
「え、えーと……。」
僕はもう一度現れた美少女を見る。
腰まで伸びた髪を背中の所で束ね、すらっとした体に人形のような顔立ち。
纏う気配は鞘を抜いて曝してある日本刀という言葉がしっくりくるくらいに鋭い瞳と剣呑な雰囲気に包まれていた。
いや、剣呑な雰囲気を通りこして殺気だ。昨日もくらったばかりなのでよく分かる。
「…………な。」
「………。」
漣さんの友人は鼎君の気配に何も言えないでいる。
漣さんは一切の動揺なく受け流しているあたり。漣さんはただ者でないことが分かる。
「えーと……。髪とか長いし胸とか大きいけど、やっぱりあれって……。」
ここまで読めば気づくでしょうが(場合によっては4話で分かっていたかもしれない)この美少女は言うまでもなく鼎清之君本人である。
「さて、聞いていると思うが私は来れない2人に代わって決闘するものだ」
「……え?」
それを聞いて驚いていた僕は更に驚愕する。
彼女……ではなく彼が発した声は普段の低い声ではなく、女騎士に似合う凛々しい女性の声だったからだ。正直今の彼にすごく似合っていた。
初めて見た時から中性的な顔だと思っていたが……。まさかここまで女装が似合うなんて。
正直これだけの美辞麗句を男に使っていることが信じられない。
『もしかしたら似合うかもしれないと思っていたが……。』
『ああ……。ヴィーナスがおらへんかったら間違いなく食っとった』
『間違いなく求婚していた。男の娘でも。』
『……。』
僕はこれから彼らの付き合い方を改めた方がいいかもしれない。まだそんなに経っていないけど。
「ね、ねえ……?鼎君のあの格好は一体……。」
『せめてコイツが女やったら……ってな」
「それで……。女装?」
『そうや、さすがに女と付き合うなんてできへんやろ?」
「………。」
そんなものは2次元の発想で実際にやろうとするものなどいない。
女の子っぽい少年が女の子に間違えられるなんて展開が鉄板だが2次元は2次元。
二次性徴を迎えるまでの小学生ならともかく鼎君は男子高校生だ。普通なら体つきだったり、声だったりの問題で無理だ。それが実際には胸とか声まで変わっている。
「いや、胸とか……それに声!あれどうなってるの?」
「胸はもちろんパッドだよー。」
「まあそこらへんは予想できるけど。」
問題は声の方だ。声なんてあっさりと変えることなんてできない。しかも男声を女声に変えるなど簡単にできることではない。
そんな質問に対しあっさりと答えた。
「ボイスチェンジャーや。」
「ボイスチェンジャー?」
「ああ、声帯に電気刺激を送って声を変えるっていうアプリをチョーカーにインストールしたんや。まあ、製作費は安かったし懐は痛まんかったけどね。」
「え?作ったの?」
「ああ。そんなもんチョチョイのチョイや。」
先ほども言ったがチョーカーにはインターネット機能が搭載されているため、そこからこの機能を使いダウンロードをしたということだ。首に巻くチョーカーならば声帯はすぐそこだし技術的な問題を除けば難しくはないのかもしれない。
それにしても……1日でそんなものを作る直原君には驚かされてしまう。
見事彼らの策略通り女と思ってくれているようだ。
まあ、今の彼を見て男を思う人間は皆無であろうが。
が、しかし。
「あんたら……女に戦わせるなんて本当に男なの?」
と彼女達の僕達を見る目がどん底まで下がっている。
「一応僕は反対したんだけど……。」
「黙っている地点で一緒よ!」
「はい。おっしゃる通りです。」
と、僕は過ちを認めたが、直原君は黙っておらず口を開く。
「こっちもなあ!ここまですんのに5万かかったんや!」
「「ご、5万円……!」」
聞いてた僕と漣さんの友達は金額の多さに唖然とした(受話器はスピーカーホンにしてある)。1万円も出せばお釣りくらい返ってくるだろうと予測していた僕にとっては更に驚きだ。
「まあ、そんなものかしら?」
「そんなわけないじゃない!」
しかし、それでも漣さんにとってそんなに大した金額ではないらしい。
それはともかく、金額の異常さにチョーカー越しに詰め寄った。
「ちょっと……『Wohl Boden』でそんなお金のかかるもの売ってないでしょ。」
『Wohl Boden』は確かに他所の店よりお高いがそれでもケーキ1個(ホール1/8)で500円。豪華絢爛の『パン・スイーツ』でも5000円。だとすれば残りの4万5000円どうなったというのだろう?
「いやいや、女装用の装飾品とか化粧品とか結構かかったんだなー。」
「ポローニアスも言うとったで?『財布の許す限り、身の回りには金をかけろ。されど馬鹿馬鹿しく飾り立てたらアカン。凝ってもええけど派手たらアカン』ってな。せやから装飾少な目で素材を活かす化粧とかしたったんや。」
ポローニアスは『人の金を使って』とは言っていないはずだ!
というより5万円近くはいくらなんでも高すぎだ!
「今鼎ちゃんが着ている服とか見てみ。」
そんなこと言うが言われなくても分かる。入学して半月の間毎日見ている美笠高校の一般的な女子制服だ。それがどうしたというのだろうか?
「カムフラージュのために欲しかったんやけどな結局貸してくれる女子に心当たりがなかったんや。」
当たり前でしょう。高校入学直後の知り合って早々、いや例え付き合いがあったとしても男子に制服を貸してくれなどと言われて快く貸してくれる女子高生などいないというのはほぼ確実だろう。
「そのせいで制服代が高くてなあ。購買で3万もしたんや……。」
「3万……いやでもまあ……そんなものかな?」
「ファンデーションで薄く化粧も決めたぜー!いろいろ揃えて安くしたけどそれでも1万円ちょっとだったぜー。」
「残りの5000円は?」
「ムダ毛をそったんやそういう店行ってな。」
「え?ムダ毛?」
「当り前だー。脛毛ボーボーの美少女なんて萎えるだろー?完璧にしとかなきゃなー。」
「……」
それはまあ……ごもっともです。
「はあ……女ってめっちゃ金がかかるんやな……。男でよかったわ。」
「……俺らしばらく公園デートになりそうだなー。」
チョーカーの向こうで疲れたようにつぶやく2人。
2人はそのうちの1万円が僕のものだということを覚えていてくれているだろうか?
「まあええわ!勝てばええねん勝てば!」
「これでヴィーナスは俺達のものだー!」
それでもすぐに元気になる悪役根性丸出しの2人。
でもいいのだろうか?そんな大きな声で言っていると……。
「か、金に物を言わせるなんて……最低。」
「そこまでして勝つのはいい印象はありませんね……。」
案の定、今の会話をバッチリ聞いていた漣さん達の好感度も急降下だ(元から高くはないだろうが)。金に物を言わせて雇うというのはフェアとは言えないだろうし(若干勘違いではあるが)。
恋の成就のために頑張ってもその結果相手から嫌われるという本末転倒な事態になっている事に気付かないなんて……馬鹿だよ。二人とも。
そして、たかだかお菓子のために男としてのプライドをここまで捨てるなんて……馬鹿だよ。鼎君。
そして願わくば、この悪印象が僕にも降りかからないで欲しい。と真剣に願った。
登場人物紹介 5
直原務 Naohara Tsukasa
誕生日:1/6 血液型:A クラス:1-1
身長:156cm 体重:49kg
得意科目:情報 苦手科目:数学
好きな食べ物:コロッケパン 嫌いな食べ物:カップ麺
鼎と同じく耀家の親友。関西弁を喋る。
情報屋としての裏の顔を持ちハッキングの方面から情報を集めるのが得意。また発明の才能も高い。
自称インテリであるため荒事には不向き。