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Disturbance High School  作者: 林 奎
第壱章 金碧姫の決闘 
7/21

第5話  4月24日 15:25 美笠高等学校北校舎 1F廊下

 話は翌日。決闘当日です!

「そう言えばさ?どこで闘うの?」

「……格技場だ」

「格技場か……何でこんなところに……?」

「まあ確かに決闘にはおあつらえ向きな場所だがな。」


 鼎君が決闘を引き受けた翌日の放課後。僕達は北校舎の階段を下り1Fに降りた。

 話によると15:30に決闘をするらしい。

 

 僕達が向かっているのは校舎の西に体育館の裏の学校の敷地の隅にひっそりと建っている小さな格技場だった。

 この格技場は学校の敷地の端っこに位置する上に授業で少しだけ使うものの後は柔道部が使うという大多数の生徒に縁のない施設だった。


「ところで鼎君……勝てる見込みってあるの?」

「ん?さあ……?」

「さ、さあって……。」

「どちらにせよ闘うだけで『パン・スイーツ』は手に入るんだ。無論勝つつもりだが……。相手次第だろう。」


 そんなことを言えばあの2人が黙ってはいないはずだがその2人はそんな文句は言わなかった。

 というより、あの2人は今ここにはいない。

 どういう事か分からない人のために説明すると。


『チクチョー!!なんで今日に限って居残りやねん!』

『全くだよー。先生って奴は都合の悪い時を狙ってくる悪魔だよなー!』


 この2人数学の小テストの結果が悪かった……いや、悪すぎたのだ。

 小テストというのは、数学の薬王寺先生が授業終了直前に実施するテストの事だ。

 まあ、テストと言っても、内容は今日やった授業のおさらいなので授業を聞いていれば何の問題もないのだが……。

 この2人……そのテストで2点より上の数字を1回も取ったことが無い(8回中)。

 そんな成績に対し当然のことながら薬王寺先生はこの2人に放課後の補習にかりだした。という訳だ。

 なので、僕は決闘なんてものに巻き込まれ、殺伐とした空気の中を見たくもない殴り合いを観戦しなければならないということだ。


「2人共……恨むよ……。」

『な、何で俺達なのー!』

『恨むんやったら俺らを拘束した先生やろー!』

「いや、成績の悪いお前たちが悪いんだろ……。」

「というか、元々ここには来させられ予定だったけどね……。」


 とはいえ決闘の結末は見届けたいという2人のために校則違反ではあるが『チョーカー』を使うことにした。

 『チョーカー』。やたらと長い正式名称があるのだが、長すぎるために大概の人は首に巻きつけて使うので『チョーカー』といういかにもな名前で呼ばれている。  

 チョーカーはGPSや身分証明証の代わりとして所持を義務付けられている情報端末でもある。

 他にも携帯電話の機能が搭載されており、音声認識機能で番号を入力して通話する機能を持っている。

 さらに内蔵されたピンホールカメラを通してこちらの様子が分かるようになっていたりインターネットにもつなぐことができたりとなかなかに便利機能が集約されているためハイテクなアイテムだ。


 無論学校内の使用なんてバレたら僕を含めタダでは済まないがそこは2人が見つからないようにうまく使っている……と思いたい。


 何はともあれ、格技場に向かう僕の足取りは非常に重い。

 まず自分とは無関係の事に思いっきり巻き込まれたこと。

 そして、結局僕はパトロンとして1万円払う羽目になってしまった事だ。


『まあまあ。ちゃんと返すからええやん。』

「……『ハムレット』でもポローニアスが『金を借りては駄目だが貸しては駄目だ。貸したのならば金とだけでなく友まで失う』って言ってたけど。そこら辺はどう?入学早々友達を失わせたりしないよね?」


 とはいえ僕は他人に強く言えないため、執拗に催促することは難しいためハムレットの名言を持ち出してちゃんと返すように釘をさすことぐらいしかできなかった。


 そんなやり取りをしている間に僕達2人は格技場の前に着いた。

 格技場は2~3年前に建てられた校内の中では新しい施設で、新しい畳敷き詰められた立派な道場だ。

 ついこの間も体育の授業で頭を畳にぶつけ失神した僕にとっては気の進まない場所だ。


「じゃあ入ろうか?そろそろ時間だし。」


 時間を見ると15:28。相手は来ているはずなので急いで入らなければならないところです。

 が、鼎君は僕を片手で制すると。


「待った。俺は少し準備がある先に行っていてくれ。」


 準備?なんでしょうか?

 まあ、僕には関係ないので、先に行くことにした。


「し、失礼しまーす。」


 僕が格技場に入ると正座をして瞑想にしていた漣さんが目に入った。彼女は気が付いた様子はない。

 なので一声かけようと靴を脱ぎ畳の上に足をかけたところで、


「ようやく来たわね。もう約束の時間の1分前よ?せめて5分前に着きなさい。」

「うわっ!!」

「驚きすぎよ!」


 突然横から声をかけられびっくりしてしまった。

 驚いて横を見ると、入口のそばで胡坐をかいていた女の子だった。

 制服に付いているバッジの色からは漣さんや僕達と同学年だという事がわかる。

 漣さんに比べ少し背は高く、肩にかかる程度の長さの茶髪。

 第一印象は活発な少女という感じだ。

 彼女も漣さんに比べると劣るが絶対的な視点で見れば上位に含まれるくらいの美少女だった。

 漣さんを山麓の澄んだ空気に例えると、彼女は燦々と降り注ぐ暖かな光という感じがする。


「えーと。あなたが参加者ですか?」

「あ、いや……僕は」

「まあいいわ……。それより1人だけ?2人で来るって聞いていたけど?」

「え、ええと……。」


 さっきも言ったが僕は補習で来れなかった2人の代わりだ(元々来させられる予定ではあったが)。

 とは言えどう説明するものかを頭をかきながら迷っていると、漣さんの友達が待ちきれないとばかりに畳み掛けてくる。


「まあどうでもいいか……。じゃあ質問。アンタは直原?それともハリヤマ?」

『播磨屋だ!いえ……何でもありません先生。』


 やはり彼は名前を間違えられるとうるさい。


「はあ……?」


 彼女は少し戸惑いながら次の質問を始めた。


「……じゃあ直原?」

『ちゃうちゃう!俺が直原や。……え、いや、顔原やないってことですよ。……え?聞き違い?そらすんません先生。』

「………。」


 目の前の少女達は頭に疑問符を浮かべながら聴く。


「……じゃああんた誰よ?」

「えーと逢河です……。」

「逢河様……ですか?」

「ていうか何でここにいるのよ?」

「……。」


 あれ?本当に……何でここにいるんでしょうね……僕?


 数分後。


「……というわけやねん。なんか質問あるか?」


 チョーカーを通して教室で補習を受けている直原君が今までの情報と経緯を先生の目を盗みつつ説明してくれた。

 そして説明が終わるやいなや、それを聞いた漣さんの友達が口を開いた。


「アンタ達……。3人がかりで卑怯なんて思わない訳?」


 え?3人?3人って何?僕も入ってるの?


「ちょっと待った!僕を数に入れないでください!」

「そうなの……?聯が可愛くないの?」

「え?」

「いや。これだけ……可愛かったら……そのね?告白しないのって事よ。」

「いや……別にそんなことはないけど。」

「え?」


 僕の問いに不思議そうな顔をする漣さんの友人に疑問を浮かべる。

 確かに彼女は可愛い。そこに否定はしないが決闘するほどまで心が動いたわけじゃない。

 実際アイドルだって可愛いからと言ってファンの全員がアイドルと結婚したい人間という訳ではないだろうし。


『ああ、今日も綺麗やなあ……。』

『レンレン様……。』


 何よりこんな2人と同類とだけは思われたくはなかった(友人ではあるが)。


「まあいいわ。3人じゃなくて2人がかりってことね……。分かったわ。」


 説得の甲斐あって僕はただ巻き込まれただけの人だとわかってもらえた様子。しかし、彼女はこう続けた。


「それでも2人がかりじゃない!……ここにいないけど。」


 そう、もう一度だけ言うが、この2人、数学の補習のために現在1-1の教室で補習中だ。

 そしてその2人は、そのセリフを聞いて笑いながら通話してきた。


『ハッハッハー。女の子1人に2人がかりとは紳士の名が泣くよー。』

『なので我々の代わりに助っ人に戦ってもらう事にしたんや。』


「……は?」

「助っ人?」

「………。」


 どっちにしても紳士の名が泣くと思うが今の空気をキープしておきたいので黙っておく。


「す、助っ人?こいつ?」


 と僕の方を注目しましたが、その様子を見た2人は、


『はははー。何を馬鹿なー。こんな貧弱な奴に俺達の命運を託すわけがないだろうー。』

『自分で闘った方がましやしな』


 なんて失礼なことを言った。


「「「………。」」」


 まあその通りなんだけど……言い方をもう少し考えて欲しい。


「ね、ねえ……。その……元気出しなさい。」

「生きてればきっといいことあるから。」


 漣さんとその友達は僕を優しく労わってくれるが、うう……その優しさがすごく胸に痛いです……。


「そ、そんなことより、あんた達……そんなことして恥ずかしくないの?」

『無論だー!恥ずかしくないー!』

『愛を前にすれば何をやっても許されるんやからな。』


 いやいや。愛を前にしてもやっちゃいけないこともあるよ?

 あとあんた『達』って……僕も入ってますかそれ? 

 そして「やっぱり……男って卑怯者ね……。」ってボソッとつぶやかれたのがすごい心に刺さるし!


「聯?どうする?」

「大丈夫。」


 苛立たしげに聯に意見を聞くと、ゆっくりともう1人の少女の方に向き直りにっこりとほほ笑む。

 確かにその所作は美しく見ている者の心をつかんでしまう。

 だからこんな決闘なんて馬鹿騒ぎが起こるんでしょうけど。


「……で?」

「えっと……。今外で待っているんだけど」

『はははー。実は合図があるまで隠れもらっているんだー。』

『その方がインパクトがあるからな。』

「じゃあとっとと呼んできなさいよ。聯はなんだかんだ言って忙しいんだから。」


 漣さんの友人はイラついている。まあ、こんな2人と一緒にいる僕にはよく分かる。


『言われなくとも呼ぶよー!いくよ。直ー。』

『せやな。1!2!3!』


 そして2人が3!の合図で大きく息を吹き込むと。


『『先生!先生~!!』』


 と大声で呼んだ。先生とはなかなかしっくりとくる呼び方だ。

 それにしても、どこかの悪代官の如く用心棒《やられ役》を呼ぶようなこの台詞は先行きに一抹の不安を感じさせたのは僕だけではないだろう。

 そ、そしてその呼びかけを受けて格技場に入ってきた。


「……な!」

「……ええ?」

「………。」


 入ってきた人物を見て僕を含めた3人が唖然としてしまった。


『先生!お願いします!』

『是非とも我々に勝利を!』

「……分かった。善処する。」


 その理由はそう言って出てきたのは漣さんと比べても甲乙つけがたいレベルの美少女だったからだ……。





登場人物紹介 4


寳野優名 Houno Yuna

 誕生日:10/9 血液型:AB型 クラス:1-8

 身長:167cm 体重:不明

 得意科目:家庭 苦手科目:体育

 好きな食べ物:大福(こしあん) 嫌いな食べ物:納豆


 もう一人の主人公。閑話での語り手。

 漣家の小間使いをしており、聯とも親友兼世話係。

 小間使いであるため家事は完璧。

 しかし勉強は中の下と低め。運動も武道は修めているがスポーツは苦手。

 1-8では聯の印象が強いため。影が薄くなりがち。


*荒事には慣れていますが一応彼女も普通の人間に分類されます。

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