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絵画大戦  作者: 式守伊之助
第5章 スペイン新聞ABC(アベゼ)
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第32話 ガイセリク封印

 ペドフィリア神父は自分の周囲が青一色に染まり「これは……?」と動きをとめてすぐジュッと音を立てて気化きかした。


 ほとんど間を置かず、神父のいた場所を中心に巨大な火柱があがった。


 それはカトリック、プロテスタント両陣営を巻き込み、ルシファーの巨体を背後に転倒させ、空中乱舞していたガイセリクと晩餐ばんさんのイエスも衝撃波で吹き飛ばした。


 軍用ヘリも大勢を保てなくなり旋回せんかいしながら激しくゆれた。

 機体にしがみつき、なんとか落ちずにいるハネツグの目の前を袋に入った「闇の奥」が移動してゆく。


 そしてハッチから空中へと落下した。


「ハネツグッ!」と叫ぶリザの声はハネツグの耳に入らず、彼女がのばした腕も目に入ることなく、気づくと機体から離した手を「闇の奥」に伸ばしたまま空中を舞っていた。


 絵をつかんでほっとしたのもつかの間、自分がヘリから落下したのだという現実に直面して、どうしようかと真っ青になったが、地面との衝突はかなり早い段階で生じた。衝撃も大したことなく、不思議な思いでハネツグは身を起す。


 運よくルーブル要塞ドゥノワ翼の屋上に落ちたらしい。ほっとしながら周囲に視線を走らせると、同じく屋上に倒れているガイセリクを発見した。


 ガイセリクは剣を握ったまま屋上のふちに横たわり、ひじで少し身体を起した姿勢で、中庭で続いている戦闘を見下ろしている。戦いに参加したいが、体力の消耗で出来ないでいるらしい。


 ハネツグは息を殺してガイセリクに接近する。袋から「闇の奥」を前に回し、絵に触れないよう額縁がくぶちの部分をつまんで袋から取り出す。


 2メートルほどへだてたあたりで立ち止まり、絵を身体の前に構えてひざを曲げる。そして一気に前へ飛んだ。


 と、突然ガイセリクが振り返ってハネツグを見た。気づかれたと思ったときには、すでに視界が上下反転していて、頭から床に落ちた。


「この身体に留まっていた甲斐かいがあった」


 ガイセリクは剣をつえの代わりにして立ち上がり、引きずる足でハネツグに近づいた。


「闇の奥」は?頭を上げて回りを見ると、手を伸ばしたほんの少し先に落ちている。身体を起せばすぐたどり着けるのに頭を打ったせいか、ふらついてうまく動けない。


 近づくガイセリクに目を戻したとき、彼の瞳がどんよりと渦巻いていることに気づく。するとガイセリクの背中から昆虫の脚がいくつも伸びてきて、ハネツグの身体をがんじがらめに拘束した。


「お前の身体、いただいた!」


 ガイセリクは勝利の笑みを浮かべてハネツグの額をガッシリつかんだ。が、少しして笑みが消えた。


 どういう訳か娘の身体から出ることができない。戸惑いでガイセリクが目をまたたいた直後、ハネツグを縛っていた大量の脚が消え、衝撃で仰向けに倒れた。


 この娘、セネカと言ったか。


 ハネツグを守るために我を身体に留めようとしている。


 転がっているハネツグをガイセリクは荒っぽく踏みつけたあと、彼の胸元に剣先を向けた。

 そしてどこでもない空間を睨みつけながら叫ぶ。


「セネカとやらよく聞け!我を解放しなければ、男の心臓を突き刺す」


 抵抗しようともがくハネツグをガイセリクの足が強烈に抑え込む。

 策はないか必死に考えているうちに、アダマンチンの切っ先が胸元からゆっくり離れてゆく。


 何が起こったのかと見上げたハネツグの視線の先に、剣を握る右手を驚きの表情で凝視するガイセリクがいた。左手でを抑えて剣を押し下げようとするが、剣は確実に上昇してゆく。


「ああくそ消えろ!なんで出てくる!」


 セネカが自分の身体を取り戻そうとしている。


「小娘ごときが、すぐに奪い返してやる!」


 言いつつも左手も協調するように右手の上に添えられる。

 ガイセリクの意に反してを握った両手が頭上まで達し、そのあとゆっくり下降を始めたとき、剣先はハネツグではなくガイセリク自身に向けられていた。


「な、何を、して……」


 ガイセリクの目にあせりが浮かぶ。

 自分の支配している身体に命令を発しながら、しかし彼は自分の支配する身体に剣を突き刺してゆく。


 剣先が皮膚を貫き、肉を裂く。口から血を流しつつ苦悶しても、両手は更に深く剣を突き刺してゆく。


 その血を浴びながらハネツグは金縛りにあったように動けない。


 突然、ガイセリクの顔から力が抜けた。猛々《たけだけ》しさがなくなり、穏やかな表情で口を動かした。


「げ……て、はや、く、逃げて……」


 それはセネカの言葉。


 セネカの思い。


 セネカの決意。


 いる、いま目のまえにいる。やっと会えた。


 ハネツグの目に涙がどっと溢れた。


 たまらなくなって何かを叫んだ。何を叫んだか自分でも分からない。

 急いで身体を起し、ガイセリクの腰に腕をまわした。そして「闇の奥」めがけて一気にとんだ。空中で片手をのばして背中から落ちると同時に「闇の奥」のカンバスに手をつけた。


 手はカンバスの中にすんなり入り、そのままスルスルとハネツグを吸い込んでゆく。抱いているガイセリクも一緒に引きずられるが、憑依ひょういされているセネカはヒストリカの住人だから絵画には入れない。


 結果、セネカの身体はヒストリカに残り、憑依ひょういしていたガイセリクだけが「闇の奥」に落ちていった。


 ガイセリクをセネカの身体から追い出したうえで、絵画に封印するというハネツグの作戦は成功した。


 たったひとつ、


 ハネツグ自身も封印絵画に入ってしまったという誤算を除いて。



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