第30話 ペドフィリア神父
沸き立つプロテスタント連合の頭上を、十字架に乗った晩餐のイエスが、いくつかの十字架を引き連れて魔物めざして飛んで行く。
飛行しながらイエスは眼下の絵画たちに告げる。
「兄弟たちよ!過去の遺恨は一時忘れ、力を合わせてガイセリクを討伐しよう」
プロテスタント連合は色めき立ち、士気が見る間に高まってゆく。
「見なさい、わたしが集めてきた十字架たちを!なんと神々《こうごう》しい光を帯びていることか! 」
「金ピカですなあ」
コック隊長のつぶやきにルターが応じる。
「カソリックの教会はお金持ってますから」
正面から飛来する脅威にルシファーが気づく。と同時に彼の肩にガイセリクがちょこんと降り立った。
「晩餐のイエスは我が止める」
腰に下げたアダマンチンの剣を引き抜いて目の高さに掲げる。
「こいつで絵具に戻してやる」
言ってすぐ疾風のように飛んだ。
空中で身体を弓なりに反らし、目前に迫ったイエスめがけて剣を振り下ろす。そんなガイセリクの刃をイエスは十字架の頭を上に浮かして受けとめ、瞬間、パッと火花が散った。
「樹幹人間のときは後れをとりましたが、今回はそうはいきません」
イエスは十字架から足を離して、背後に控えていた別の十字架に飛び移った。そして両手で指揮者のようにリズムを刻んだ。
「十字架ファンネル!」
空中で待機していた複数の十字架がまるで意思を持ったみたいに狂おしく飛んで、あらゆる角度からガイセリクに攻撃を始めた。
次々と迫りくる十字架をガイセリクは剣で受け流し、身体を捻ってハラリといなし、やにわに反撃しては手ごろな十字架を足がかりに跳躍することで空中にとどまりつづける。
崩れかけていたプロテスタント連合の陣営がカトリックの加勢によって持ち直し、ルシファーの進撃に歯止めをかけた。
そしてとうとう彼の渾身の一撃がひとりのカトリック絵画によって止められた。己の力を信仰していたルシファーは自分の攻撃を正面から受け止めた存在に明らかな動揺を見せた。
どこの名画だ?
十字架を持ってる、どこのイエスだ?
周囲がざわめく。
無駄のない細身の身体と、自らに厳格な戒律を課しているようなストイックな面持ち。
特に印象的なのはメガネの奥から覗く鋭い眼光だった。さぞや名のある絵画だろうが風采だけでは誰か分からない。
答えは彼の持っている十字架が教えてくれた。
素っ裸の少年が両手を横にピンと伸ばした姿の十字架。
なんと罪深い……。
「分かったぞ!彼はイエスじゃない!」
名画のひとりが叫ぶ。
「覆面芸術家バンクシーのストリートアート『ペドフィリア神父だ!」
盛り上がる名画たちのなか、ルターだけは怒りに肩を震わせて「そこっ!」と人差し指を神父に向ける。
そして「……そこが変だよ」といつもの名調子を口にしようとするも、コック隊長の「ペドがやってくれた!」の歓喜が被さる。
ルターは眉をつりあげて、
「なに喜んでるんですか、あれ幼児性愛者ですよ?!」
「毒をもって毒を制した!」
「神サイドに毒いちゃダメでしょ」
ルターの反論も耳に入らない様子のコック隊長は高らかにガッツポーズをし、配下にさらなる追撃を命じた。




